研究課題/領域番号 |
25292089
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
黒田 慶子 神戸大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (20353675)
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研究分担者 |
石井 弘明 神戸大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (50346251)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ナラ枯れ / ブナ科樹木萎凋病 / イチジク株枯病 / 水ストレス / 通水阻害 / 木部樹液 / 樹液流速度 / 養菌性キクイムシ |
研究実績の概要 |
課題1管理下にある苗木を用いた樹木生理と発病の関係性の解明 H25年度と同様にイチジク2年生苗にC. ficicolaを接種し、苗の下部に熱流束センサーを装着して水分通導の変化を追跡した。「非保水区」では接種10日後から萎凋個体が発生したが、「保水区」の病徴発現は2週間後以降で、葉が萎凋せずに落葉する例が目立った。落葉個体でも接種部位付近で木部が広く変色し、通水範囲が著しく減少していた。熱流束の値から、健全苗では晴天の昼間は幹の外側(大気)から内側(主幹内部)への熱移動が大きく、木部樹液が低温傾向であることが推測された。接種苗で萎凋開始個体では,熱流束値が最大値を示す時刻が健全木よりも早まる傾向があった。これは樹液流動が緩慢になり,外気温の影響が大きくなったためと推測した。 課題2自然環境下における感受性変動要因の検出および応用技術への発展 A.イチジク農園での調査:東広島市内の農園では,幹下部で枝を強制的に90度曲げて樹高を低く作る栽培方法である。屈曲部の樹皮には縦方向の亀裂が高頻度で形成されていた。幹太さ10cm程度以下の若齢木は土壌経由の感染が主体であった。一方,アイノキクイムシ媒介により感染枯死した個体は高樹齢(16-20年生,直径20cm以上)の農園で認められた。加齢にともなう水ストレス増加や樹皮の傷の影響で,キクイムシ穿入や通水阻害が促進された可能性がある。 B.ナラ枯れ感受性に関わる生理的要因の解明:里山二次林に試験地を設定し,カシノナガキクイムシの穿入木・健全木について樹液流速度を測定した。キクイムシ穿入密度が高いコナラ・アベマキでは,萎凋症状が出る前に,健全木と樹液流動の変動パターンが変化した。晴天で十分に蒸散がある時間帯に,キクイムシ穿入木では時々樹液流速が変動して値が低下する状況が検出された。樹液流は停止していないが,通導阻害が進行しているものと推測された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ナラ類樹木の苗に病原菌を接種する実験は,サイズや形質が均一なコナラ苗木を得ることが困難であったため,モデル植物と想定したイチジク苗への接種実験に集中した。イチジクは挿し木栽培でクローン苗が多数得られ,実権結果のばらつきが少なく,当初の研究目的が達成できた。その他は当初の計画通りに実験,計測および調査を行い,十分にデータを得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
課題2 自然環境下における感受性変動要因の検出および応用技術への発展 A. イチジク農園での調査およびイチジク苗木への接種研究:イチジク株枯病発生地域において、樹木の管理方法、灌水などの条件に注目し、水ストレスの状況と罹病枯死との関係について検討する。苗への病原菌接種後の病徴進展と水ストレスとの関係性について明らかにする。 B.ナラ枯れ発生地域での計測と調査:昨年度の試験地2林分のうち,1カ所では感染被害が激害化した結果,本年度には被害が収束すると予想される。もう1カ所は昨年度に被害が開始したばかりで,今年度に被害増加が予想される。本年度は激害地における枯死率を明らかにし,被害拡大動向を把握する。未被害地に試験地を追加設置することも考えている。野外における水分生理の測定研究は昨年度に引き続いてデータを蓄積する。ナラ枯れ未被害林分、未被害個体において樹幹内の水分状態、樹液流を計測する。個体差や場所(斜面の上部、下部)による差を明らかにする。土壌水分やナラ類以外の植生を比較して、被害発生傾向について検討し,感受性の変動を明らかにする。研究項目AとBの一部は,昨年度の繰り返し実験を行ってデータの信頼度を高めることが目的である。 C.総合的検証と応用への発展:H25年度の課題1およびH26-27年度の課題2のA、Bの成果から、感受性に強く関わると推測される要因を明らかにする。また,その結果から得られた枯死の促進要因を指標として、枯れやすい場所と枯れにくい場所の判別を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
調査木の伐採費用を見込んでいたが,今年度は年度末まで調査を続けたため,伐採(伐採業者への委託)が実施できなかった。また,伐採にともなうアルバイト(作業補佐,データ処理)の雇用を実施しなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
調査木の伐採および解体費用として使用する。また,データ処理作業の補佐としてアルバイトを雇用する。
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