研究課題/領域番号 |
25292090
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
佐藤 宣子 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (80253516)
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研究分担者 |
興梠 克久 筑波大学, 生命環境科学研究科(系), 准教授 (00403965)
根津 基和 東京農業大学, 地域環境科学部, 研究員 (20459712)
川崎 章惠 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (30598412)
藤村 美穂 佐賀大学, 農学部, 准教授 (60301355)
三木 敦朗 信州大学, 農学部, 助教 (60446276)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 東アジア / 森林政策 / 木材自給率 / 山村 / 直接支払い |
研究実績の概要 |
平成27年度の実績は次の4点である。 第1に、海外研究では、韓国と台湾に関する文献調査の他に、韓国で最も素材生産が活発化している江原道を対象に、行政、山林組合、素材生産事業体、製材工場の資料収集を行った。その結果、2011年からの3年間で素材生産が1.3倍となっており、主な生産樹種はカラマツとアカマツであること、林業労働力の確保が急務になっていること、木造の公的施設を山村集落に建設するなどの利用促進策が強化されていること、一方で山村集落は特用林産物や観光レクリエーション収入への期待を高めており、林地価格が上昇していることを把握した。台湾については前年度までに収集した資料をとりまとめ、平地造林政策展開の特徴について学会報告を行った。 第2に、国内研究では、①国内で最も素材生産活動が活発で、2013年に国内最大手の林産企業が下流に立地した宮崎県耳川流域において森林所有者調査(上流域2集落33戸、下流域6戸)を実施した。その結果、所有者の林業収入への依存度、森林組合による加工事業、林産企業への距離によって影響は異なるものの、自伐林業の再開、集落内所有者からの委託生産、素材生産事業体へ展開している林家が存在することを把握した。②その他、静岡県、鳥取県、福井県、山梨県、佐賀県において行政資料の収集ならびに森林組合、集落、森林所有者のインタビュー調査を実施した。 第3に、制度的に素材生産を促進するとされる森林経営計画の認定実績(2015年3月末)について47都道府県全てのデータを入手し、分析を行った。その結果、①都道府県および市町村による認定率に大きな差異があること、②素材生産が活発な地域では、林班計画の範域を広げ、制度が求める間伐面積の下限などの要件に適応させていることが分かった。 第4に、以上の研究成果を国際学会と4つの国内学会で発表し、学術論文として公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は社会科学の研究であるため、データ収集において対面調査の占める比率が高く、海外研究では、研究者協力者との信頼関係がなにより重要である。海外フィールドである台湾と韓国では研究代表者が博士論文を指導した卒業生との協力体制を構築しており、調査地の確定、行政資料の収集、研究代表者との議論も順調である。今後は日本の林業政策が韓国と台湾にどのように相互に影響を与え、参考にされているかを土地所有、森林資源、制度、経済条件などを比較研究し、東アジア3国の共通点と異動を議論する必要がある。 平成27年度までの3ヶ年間に国内調査では、研究分担者が中心となって、静岡県の自営農林家の組織化、高知県の自伐林業への若手の参入実態、福井県のコミュニティ林業の展開過程、北海道カラマツ林業地域での農業と素材生産の関係、南九州での林業素材生産事業体による林地流動化の実態、バイオマス発電所稼働後の素材生産事業体の施業変化など、低質材を中心とした需要拡大に対応して林業生産構造の変容が地域差をもって進行していることについて、予想以上のデータ収集ができた。素材生産が国内で最も活発な宮崎県耳川流域では、26年度に実施した上流域での集落調査に加えて、27年度に中下流域の森林組合と森林所有者の実態調査を実施したことで、同じ流域内においても大規模木材産業の立地が与える影響および市場への対応方法が異なることを明らかにできた。 昨年度の課題であった、平成24年度から開始された森林経営計画制度の実績データに関して、平成、24年度、25年度の都道府県別認定率、26年度については全ての47都道府県・市町村別のデータを収集することができた。 以上のことから、おおむね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
過去3年間の海外調査と国内調査結果を分析し、補足調査を実施し、収集データを取りまとめ、分担者・海外研究協力者間で情報共有をはかる。平成28年度は最終年度であるため、東アジア3国の林業・地域構造の共通性と相違点を議論し、制度・政策課題を検討する。その際、ヨーロッパを研究してきた国内の研究協力者と議論し、木材自給率が低い東アジアの林業振興のあり方について、EUおよびヨーロッパ諸国との林業、山村地域の異同を踏まえながら考察する。 具体的に28年度、海外研究に関しては、台湾はこれまでに得られたデータをとりまとめ、韓国では林業労働力の析出構造と技術研修に関して調査を実施する。台湾と韓国の自給率向上政策の特徴と背景について取りまとめる。 国内研究においては、平成27年度末に入手した47都道府県の森林経営計画の策定状況を分析し、平成24年度以降の木材自給率向上政策の特徴と地域への影響について考察を深める。その全国データを用いて、都道府県を計画カバー率と林班計画率の2軸で4つに類型化し、調査対象地を位置づけ考察を深める。事例調査では、大規模木材産業による木材の需要量と材質、木質バイオマス発電需要の実態を踏まえることに留意し、それらが山側にどのような影響(林業経営収支、伐採更新方法、相続や売買動向、グループ化、I・Uターン者など林業への新規参入者、世帯構造の変化等)を与えているのかを把握する。 以上の国内・海外調査結果を統合して、東アジア3国の木材自給率向上政策の特徴と課題についてとりまとめる。研究成果を平成28年度には、林業経済学会や日本森林学会等で報告するとともに、29年3月に林業経済学会の研究会ボックスを企画し、研究成果を報告し、研究者、行政担当者、市民とともに我が国の林業振興と山村定住化策について議論する。
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次年度使用額が生じた理由 |
基金繰り越しの原因は、平成28年3月に予定していた研究分担者、協力者との打ち合わせ日程が学会や学務関係の用務のため調整できず、年度を超えて4月にずれ込んだからである。そのため、福岡-東京2名の旅費分として約8万円を繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年4月下旬に打ち合わせ日程を決定しており、繰り越し分は年度当初に使用する。28年度分については計画的に予算を使用し、確実に研究をすすめていく。
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