我々はスギ花粉症対策として遺伝子組換えによるスギの雄性不稔化技術の開発を進め,作製した組換えスギが雄性不稔であることを確認した。しかし、遺伝子組換えによる雄性不稔スギを野外で実用的に栽培するためには、組換えスギの種子による遺伝子拡散を防止することが必須である。そこで本研究では、細胞を致死させる RNA 分解酵素の発現制御により、針葉樹ではまだ例のない雌雄両性不稔の組換えスギを作製する技術を開発する。また、不稔形質の安定性や成長への影響等、実用化を視野に入れた基盤情報を集積することを目的とする。 スギの遺伝子組換えでは、不定胚形成細胞と呼ばれる培養細胞に遺伝子を導入するが、この細胞を安定的に維持するためには液体窒素中での超低温保存が有効である。そこで、スギの不定胚形成細胞の液体窒素中での保存手法を開発し、保存細胞の成長や不定胚分化能の安定性を確認した。また、遺伝的に優良な培養細胞である精英樹人工交配家系の培養細胞を保存した。雄性不稔化遺伝子を導入した組換えスギでは、隔離ほ場における野外試験を平成27年4月より開始し、栽培1年目の野外での不稔性と生育の健全性を確認した。雌性器官で発現する遺伝子については、次世代シーケンス解析により、栄養生殖器官での発現量と比較することにより、雌性生殖器官での発現の特異性が高い遺伝子を同定した。これらにより、遺伝子組換えにより、優良なスギを不稔化するための基盤技術が整った。
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