研究実績の概要 |
ナラ類を大量に枯死させる「ナラ枯れ」は、落葉性のコナラやミズナラだけでなく、常緑のシイ、カシ類にも被害を及ぼしている。これらのブナ科樹木には病原菌の侵入によっても枯死しない樹種があり、ナラ枯れに対する抵抗性の程度に樹種間で差異がある。一方、病原菌の「ナラ菌」には同一種内の菌株によって病原力に差異がある。このような抵抗性と病原力の差異を背景として、本研究では、抵抗性に関与する防御物質と、病原力に関与する毒素の化学物質に着目して、化学物質のもつ病害抵抗性因子と病原力決定因子としての役割を評価し、樹木と病原菌の相互作用系を解明すると共に、ナラ枯れ抵抗性選抜のための基礎知見として寄与することを目標として実施した。感受性のコナラから5種類の抗菌物質2,6-ジメトキシベンゾキノン、シリングアルデヒド、スコポレチン、バニリン、および3,4,5-トリメトキシフェノールを単離し同定した。これらの物質について、感受性のコナラとミズナラにおける濃度変動を測定した結果、ナラ菌接種により辺材で濃度が高まったことから、ナラ菌の侵入に対して防御物質として機能していると考えられた。一方、ナラ菌に対する主な抗菌物質として、中程度抵抗性のマテバシイからはトリテルペノイド類が単離され、高抵抗性のアカガシからはカテキンが単離された。このことは、樹種によりナラ菌感染に対する防御物質が異なる可能性を示唆しており、樹種間の抵抗性の差異を同じ物質を尺度として比較できない可能性があることを意味している。さらに、ナラ菌の毒素生成量は菌株間で異なることが明らかになった。しかし、病原力とは弱い相関であったことから、病原力決定には様々な因子が複合的に関与していると考えられた。
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