研究課題
本研究は、原発事故前の林地斜面に存在していた過去50年間の大気圏核実験による降下Cs-137の林地斜面への沈着分布特性を解明し、原発事故由来のCs-137の50年後の残存分布予測を行うことを目的としている。平成27年度は、グローバルフォールアウトCs-137の沈着量の決定要因の解析を行った。東北日本海側と北陸で大きいCs-137沈着量の地域傾向は冬季降水量で説明できた。冬季降水量を固定効果とした変量効果モデルを用いてCs-137沈着量の空間変動パターンを解析した。冬季降水量で説明できない沈着量のばらつきは、調査地点間のばらつき(分散成分の28%)と同一地点内の断面間のばらつき(同72%)に分別された。調査地点内4断面間の沈着量のばらつきは大きく、調査地点間の変動と同等かそれ以上であったが、二次移動後の残留分布に関与すると考えられる地形特性では説明ができなかった。一方、沈着量と垂直方向の分布の重心には相関が認められ、沈着量が大きい断面ほど断面の深い層にCs-137が蓄積していることが明らかになった。また、リターに沈着したCs-137に関して酸不溶態Csの存在形態を明らかにするために、酸不溶性Cs画分をHFおよびH2O2で逐次的処理して、Csがリターに含まれる灰分(ケイ酸塩等の無機成分)と酸不溶性有機物(リグニン成分)のどちらに収着しているのか、検討した。その結果、最初のHF処理で、分解程度の低い新鮮なリターからは9割以上のCsが溶出する結果が得られた。反面、分解程度の進んだリターでは4~5割がHF不溶Csとして有機物残渣に残った。HF不溶Csに対してH2O2を処理したところ、90~96%のCsが有機物とともに溶出した。このことから、酸不溶態有機物とCsの間には何らかの相互作用の存在が示唆され、これがリター層を含む有機質土層へのCs保持に寄与している可能性が考えられた。
2: おおむね順調に進展している
日本全国の森林土壌中に蓄積するグローバルフォールアウトCs-137の量を明らかにすることはできた。また、これまで実態とメカニズムが分からなかった有機物層によるCs-137保持特性と有機物組成の影響が明らかにされつつある。Cs-137が森林に降下後も森林生態系内に残存するかどうかを評価するためには、グローバルフォールアウトCs-137の降下量との比較が不可欠であり、これをさらに検討するために課題を1年間延長することにした。
グローバルフォールアウトCs-137降下量について気象要因から追加解析し、リターへのCs-137沈着に関して追加分析を行って成果を取りまとめ、学会発表及び論文化を進める。また、福島原発事故由来のCs-137の森林土壌中の分布をグローバルフォールアウトCs-137と比較するための追加調査を行う。これらの成果を取りまとめて、原発事故由来Cs-137の50年度の残存分布予測を精緻化する。
今年度はCs-137濃度が低い土壌試料を多数分析するために、NaIガンマカウンターによる測定時間を2~4倍長くした。そのため、サンプルの処理点数は2分の1から4分の1に減少し、試料前処理を行うための人件費が少なくて済んだ。また、当初予定していた出張予定を中止し、翌年度に回すことにしたため。
Cs-137濃度が測定未了試料の測定を完了させる。また、福島原発事故由来のCs-137が分布する地域で土壌の追加調査を行う。成果のとりまとめを行って、学会発表、論文投稿を進める。
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現代化学
巻: 540 ページ: 40-43
Bears Japan (日本クマニュース)
巻: 16 ページ: 15-16