研究課題/領域番号 |
25292101
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研究機関 | 独立行政法人森林総合研究所 |
研究代表者 |
服部 力 独立行政法人森林総合研究所, 森林微生物研究領域, 室長 (00353813)
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研究分担者 |
山田 利博 東京大学, 農学生命科学研究科, 教授 (30332571)
太田 祐子 独立行政法人森林総合研究所, 森林微生物研究領域, チーム長 (60343802)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 樹幹傷 / 腐朽病害 / 人工林 / ヒメカバイロタケモドキ / 辺材腐朽 |
研究実績の概要 |
近年、施業や獣害などに起因する樹幹傷から腐朽が進展、辺材を中心に造林木の材が腐朽する事例が増えている。特に、スギは樹幹傷由来と推察される辺材腐朽の発生が顕著である。本研究では、これら腐朽の主要な原因菌を明らかにするとともに、腐朽発生に関わる生物学的環境要因(宿主の反応、材内菌類相)を明らかにし、スギの腐朽被害軽減に必要なデータを集積するものである。得られた情報は、腐朽変色の少ない高品質木生産のための、造林木の施業指針や造林地管理手法開発に利用する。 東京大学千葉演習林(清澄)において、昨年の7月、10月にチャアナタケモドキ、ヒメカバイロタケモドキ、Physisporinus sp.(未同定)の3種を接種したスギについて、接種後3及び12ヶ月後に伐採を行った。3ヶ月後および12ヶ月後の分離結果には大きな差は認められなかった。ヒメカバイロタケモドキは7月接種、10月接種の接種木いずれについても、全接種木から接種菌が再分離された。チャアナタケモドキおよびPhysisporinus sp. では、7月接種分についてそれぞれ5本中5本、4本(3ヶ月後分離分)、あるいは5本中5本、3本(12ヶ月後分離分)から再分離された。一方、10月接種分については、チャアナタケモドキおよびPhysisporinus sp.でそれぞれ5本中1本、2本(3ヶ月後分離分)、あるいは1本、2本(12ヶ月後分離分)から再分離された。ヒメカバイロタケモドキについては、接種時期にかかわらず高い頻度での辺材内定着が認められたが、他の2種では夏期に定着率が高いことが示唆される。 Physisporinus属に属すると考えられる子実体由来菌株(広葉樹生およびスギ生)を収集し、和歌山県および熊本県のスギ腐朽材から分離した13菌株とともに、現在シーケンスを進ている。腐朽材由来菌と子実体由来菌株のシーケンスが一致した場合は、一致した菌株の子実体の形状などから今後これらの同定を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
従来、辺材腐朽菌として認識されていなかったヒメカバイロタケモドキ、およびPhysisporinus sp.が高い頻度でスギ生立木の辺材内に定着することが明らかになった。これらの菌は、実験室内でスギ辺材(テストピース)に対する腐朽力を有することも確認され、スギの重要な腐朽菌であることが新たに示唆された。 また、ヒメカバイロタケモドキは接種の時期に関わらず高い定着能を示すのに対して、チャアナタケモドキおよびPhysisporinus sp.は夏期に高い定着能を示すことが明らかになった。これは、樹幹傷の生じる季節によりその腐朽リスクが異なる可能性を示唆しており、森林施業上重要な情報である。 現時点で未同定のPhysisporinus sp.については、近縁種の可能性のある菌株を多数収集し、現在分子系統解析を行っている。現時点では、熊本県のスギ腐朽被害材から分離されたものと同種の可能性のある菌株が得られており、その分離源となった子実体の形態等から種名を決定できる可能性がある。また、その種の生態を明らかにすることにより、スギ腐朽被害発生リスク軽減のための有用な情報が得られる可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
腐朽菌を接種したものの、腐朽菌の定着が認められなかった接種木から分離された(接種腐朽菌以外の)菌について、分子系統学的解析によりその同定をすすめる。これらが腐朽菌と強い拮抗作用を有するかを培地上の対峙試験により明らかにする。 接種材の変色部から抗菌物質を抽出し、その同定につとめる。接種した菌の種類と、辺材の反応や壊死などに違いがあるかを、肉眼観察および解剖学的手法によって明らかにする。 未同定のスギ辺材腐朽菌について、分子系統学的手法により近縁種との遺伝的関係を明らかにする。子実体由来菌株と塩基配列が一致するなど同一性が確認された腐朽菌については、子実体由来菌株の分離源となった子実体の形態学的および生態学的特徴を明らかにし、その種名の確定につとめる。 傷幅が宿主辺材の腐朽長や宿主の他の反応に及ぼす影響を明らかにするため、スギ生木に対して横幅の異なる接種源による接種を行った。これらについて伐倒、解体を行い、傷幅が宿主に及ぼす影響を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
未同定腐朽菌の近縁種菌株収集が若干遅くなり、未同定菌を同定するための分子系統学的検討のためのシーケンスがやや遅れた。また、接種材から分離した、接種した腐朽菌以外の菌について、菌株の確立作業がやや遅れた。これらのシーケンスについては、次年度に集中して行う。抗菌物質の同定についても次年度に集中して行う。また、傷幅が辺材の腐朽長や樹体に及ぼす影響を明らかにするための接種試験を新たに追加、これについては次年度に伐倒、解体、菌の分離や樹体反応の観察を行う必要がある。
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次年度使用額の使用計画 |
未同定菌同定、および接種木から分離された菌の同定のため、これら菌株の分子系統学的解析を行う。未同定菌の形態観察を行い、これらの同定を行う。辺材変色部から抗菌物質の抽出を引き続き行い、ガスクロマトグラフィーによって主要な物質の同定を行う。東京大学千葉演習林において接種試験を行った接種木を伐倒、解体し、腐朽長の測定、菌の分離や樹体反応の観察記録を行う。
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