研究課題/領域番号 |
25292109
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研究機関 | 独立行政法人森林総合研究所 |
研究代表者 |
安部 久 独立行政法人森林総合研究所, 木材特性研究領域, 主任研究員 (80343812)
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研究分担者 |
石川 敦子 独立行政法人森林総合研究所, 木材改質研究領域, チーム長 (00353574)
和田 浩 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館, 学芸研究部, 室長 (60332136)
渡邊 宇外 千葉工業大学, 工学部, 准教授 (70337707)
渡辺 憲 独立行政法人森林総合研究所, 加工技術研究領域, 主任研究員 (90582734)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 木彫像 / 樹種識別 / NIR / VOC / DNA |
研究実績の概要 |
日本の木彫像に多く用いられている10種((針葉樹5種(ヒノキChamaecyparis obtusa、 スギCryptomeria japonica、 コウヤマキSciadopitys verticillata、 アスナロThujopsis dolabrata、 カヤTorreya nucifera)、広葉樹5種(トチノキAesculus turbinata、 カツラCercidiphyllum japonicum、 クスノキCinnamomum camphora、 ヤマザクラPrunus jamasakura、ケヤキ Zelkova serrata))の木材の樹種判別が近赤外分光法で可能であるかを検討した。森林総合研究所が所蔵する木材標本を用いて、波長領域830-2500nmの拡散反射スペクトルを収集し、二次微分スペクトルを用いて主成分分析を行った。波長領域830-1150nmを用いた主成分分析の、第1と第2主成分のスコアプロットでは、奈良から平安時代に製作された一木彫の木彫像に多く用いられているカヤのプロットが他の樹種のプロットと分かれてグループとなることが確認された。波長領域1300-2500nmを用いた場合には、針葉樹のプロットと広葉樹のプロットが分かれることが確認された。このように、分析に使用する波長領域によって判別可能な樹種が異なることが分かった。このモデルを用いて、寺社等に保管されている樹種が確認されている木彫像から得られた近赤外スペクトルの分析を行った結果、針葉樹と広葉樹は明瞭に分離することができたが、一方、カヤは分離されなかった。また、木彫像から放散されるVOCを収集した結果、カヤからはヌシフェラール、クスノキからはカンファーと考えられるピークが検出され、これらの樹種はVOC分析で判別できる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は、非破壊的な木彫像に用いられる木材の樹種識別の技術の開発、木彫像から得られる可能性のある微量の木材からのDNA分析の可能性の検証、実際に寺社等に保管されている木彫像の調査の3つの部分から構成されている。非破壊的な木材の樹種識別の技術として、近赤外分光分析法、木材から放散されるVOCの収集と分析による方法を検討し、針葉樹と広葉樹の判別、カヤ、クスノキ材の検出の可能性を明らかにでき、最終年度はさらにその精度の向上を目指す段階である。 一方、DNA分析についても伐採後400年以上経過したスギ材からのDNA検出に成功し、その量だけでなく、DNAの長さやコピー数を精密に測定する成果があり、すでに論文化されている。 実際の木彫像からはすでに800以上の近赤外線スペクトルが得られており、また、数十体の木彫像からVOCが収集され、分析も進んでいる。このように、実験室レベルの実験から得られた成果の有効性を実際の木彫像で検証するシステムも構築されており、研究計画に沿って研究は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に作成した近赤外分光分析法を用いた非破壊的な木材の樹種判別のために開発した統計モデルが、実際に寺社等に長期間保存された木彫像から得られたスペクトルにどの程度適応できるかを検証する。樹種識別の精度を向上させるために、同一樹種において、統計モデルのスペクトルと木彫像から得られたスペクトルとを比較し、スペクトルが木材の長期間の保管でどのように変化しているかを解析することで、各樹種に特徴的な波長領域を特定し、それぞれの樹種を判別するのに有効な波長領域を確定する。また、10樹種すべてを一度に識別する方法だけでなく、段階的な判別方法についても検討する。また、これまでの結果をカナダのケベックで開催される国際木材加工機械セミナーにおいて発表する。 VOCを用いたこれまでの研究では、上記10種のうちのクスノキ、カヤの木材からVOCを収集して、特異的なVOCの成分がGC-MS分析で同定できた。寺社等に保管されている木彫像からもこれらの特異的なVOCが得られるかを検証する。特に、奈良から平安時代の一木彫の木彫像に最も多く用いられているカヤ材で作られた木彫像が検出できるかを検証する。 最終的には、上記の非破壊的な方法で得られる結果を相互に比較し、木彫像の樹種の非破壊的な判別方法について検証する。特に、木彫像では判別が困難なカヤ材とヒノキ材を判別できるかが最も重要な点である。 カヤ材から得られたDNAを分析し、長期間保管された木材中に残存するDNA質と量について分析し、DNA分析によるカヤ材で作られた木彫像の産地判別の可能性を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
成果のとりまとめに当たり、通年での非常勤職員の雇用を計画し、人件費を計上していたが、適任者がおらずその分の研究費が次年度使用額として発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は最終年度であるため、最終的な成果のとりまとめに当たり、通年での非常勤職員の雇用に使用する経費とする。
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