研究課題/領域番号 |
25292114
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
和田 実 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 准教授 (70292860)
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研究分担者 |
近藤 竜二 福井県立大学, 海洋生物資源学部, 教授 (30244528)
梅澤 有 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 准教授 (50442538)
ニシハラ グレゴリーナオキ 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 准教授 (40508321)
嶋永 元裕 熊本大学, 沿岸域環境科学教育研究センター, 准教授 (70345057)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | イオウ酸化細菌 / 貧酸素 / 閉鎖性内湾 |
研究実績の概要 |
2014年8月の大村湾中央部海底において、繊維状のイオウ酸化細菌のマットの大規模な発達状況を確認した。定期的な潜水調査により、概ね7月下旬からマットを構成する繊維状のイオウ酸化細菌が堆積物表面に現れ始め、その後、安定した成層環境下では、約3週間で巨視的な微生物マットが形成されることが示された。微生物マット由来のDNAから16SrRNA遺伝子の次世代シークエンシング解析によって、Arcobacter,Thiotrichales, Chloroflexi, Thioploca, Beggiatoa, Chromatiales などの多様なイオウ酸化細菌が存在していることを見出した。昨年と同様に湾中央部海底泥試料から、緑色イオウ酸化細菌の培養を行い、Prosthecochloris vibrioformis および Chlorobium limicola からなる集積培養系を確立し、13Cで標識した後、飼育下の二枚貝(Anadara broughtonii)に投与したところ、1週間以内に、二枚貝の筋肉組織へ安定同位体標識が移行することを確認した。 同海域のメイオベントス群集のうち、カイアシ類は,夏季はほぼ皆無だったが,溶存酸素濃度が回復した秋季に個体数が回復した.群集構造を見た場合、秋季はLongipediidae(科)の優占率が高かったが、それ以降は、CletodidaeとEctinosomatidaeの優占率が高まったものの、その後の貧酸素水塊発生によりカイアシ類群集は再び壊滅的状態となった。底生線虫類では、夏の貧酸素期に全体の個体数が減少するものの、口器形態からみて、泥中の細菌食性の個体の割合が増加しており、夏の大村湾海底では、嫌気性細菌のバイオマス生産が線虫などのメイオベントスの捕食作用によって、より高次の捕食者へ有機物転送される可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2014年の夏に大村湾の貧酸素化は2013年度に比較して大規模化し、海底堆積物上にイオウ酸化細菌の微生物マット形成を認めたため、マットサンプルの直接採取を実施し、調査を進展させることができた。しかし、大規模な微生物マットの維持・持続期間は予想外に短く、8月上旬の最盛期を境として、3週間程度で急速に衰退していったため、マット形成の主体となっていた糸状イオウ酸化細菌の分離・培養には至らなかった点や、海洋構造の一時的な乱れによるマット形成への影響を、堆積物中の嫌気的有機物分解過程の変動から評価するのに必要十分な試料採取ができなかった点などが悔やまれる。一方、実験室内においてイオウ酸化細菌による微生物マット形成を再現するマイクロコズム実験系を確立できた点や、集積培養した光合成緑色イオウ細菌を安定同位体標識し、大型ベントスに投与すると短期間でベントスの筋肉組織も同位体標識されることを見いだすなどの成果が得られたことから、概ね今年度の目標に届いていると判断された。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に確立したマイクロコズム実験系と、次世代シークエンサーによるマット形成細菌群集の遺伝子配列データ解析を活用して、マット形成に関わる細菌群集の遷移過程をモデル化する。また、大村湾中央部海底におけるイオウ酸化細菌および硫酸還元細菌の多様性と現存量の変動パターンを定量解析し、湾内海底で進行する貧酸素化とイオウ循環過程のリンクを明らかにする。さらに、微小な動物プランクトンを利用して、集積培養したイオウ酸化細菌の捕食実験を行い、嫌気環境下で生産される細菌由来有機物の転送過程の検証を継続する。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費の総支出額が当初の予想よりも低く抑えられたために次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は8,685円と小額であり、平成27年度分の合計請求額については、当初の計画どおり適切に使用する。
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