研究課題/領域番号 |
25292117
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
桜井 泰憲 北海道大学, 水産科学研究科(研究院), 教授 (30196133)
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研究分担者 |
山本 潤 北海道大学, 北方生物圏フィールド科学センター, 助教 (10292004)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | スルメイカ / 再生産 / 気候変化 / GIS解析 / 飼育実験 / 人工授精 / ふ化幼生 / 資源変動予測 |
研究概要 |
1)スルメイカの再生産仮説の検証飼育実験 ①7-12月の間,合計4回の北大水産学部の水槽センター内の大型飼育水槽でスルメイカを給餌飼育し,その成熟と産卵に対する水温制御と促進効果を検証した.その結果,13-14℃では成熟抑制,15℃で雄の交接行動,17℃で雌の卵巣発達と排卵の促進,20℃以上で産卵行動を誘発できた.②日本海区水産研究所宮津支所にて,外套長10cm前後の若イカを15℃以下と17℃で給餌飼育した.17℃では外套長が13-15cmにも関わらず,雌雄とも成熟が促進され,雌は排卵まで至った.③スルメイカの成熟は体サイズ依存ではなく,経験水温が17℃以上であれば小型でも成熟することが明らかとなった.④発生卵の囲卵腔を拡張させる輸卵管腺成分を超遠心分離により分画し,そのうち分子量1万以下の塩溶性画分がその機能をもつことが明らかにできた.⑤ふ化幼生の初期栄養物質については,外洋性スルメイカ類のアカイカで,船上にて実施した.その結果,有機けんだく物を含む海水飼育で,ふ化後8日間生存した.この成果は,次年度の飼育実験で検証する.⑥ふ化幼生の水温選択制に関する研究成果を,Fisheries Sceinceに投稿し,現在最終校閲中である. 2)温暖化を含む気候変化に適用できる季節別発生群の生活史・回遊モデルの構築 ①2000年以降の再生産海域の月別変化をGIS解析し,2010年,2012年は10月の秋生まれ群の再生産海域の縮小を確認し,次年度の初漁期の遅れと不漁を予測し,事実そのような結果となった。.なお,2013年10月も同様であり,2014年の漁期の遅れなどが懸念される.②冬生まれ群については,2000年以降のその現象を年ごとにGIS解析し,50m水深の水温マップをもとに漁場の北偏(オホーツク海沿岸)と南下回遊の遅れを予測できた.その傾向が今後も続くことが懸念される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
水槽内での水温制御によるスルメイカの成熟・抑制と20℃以上での産卵促進を検証できた.また,小型サイズのスルメイカでも,経験水温による成長と成熟のトレードオフを初めて実験で証明できた.ただし,10トンの円形水槽内での産卵行動による正常な卵塊形成に至らなかった.この原因として,直径80cmの卵塊を産卵させるためには,水槽が矮小であったことが考えられる.次年度は,300トンの大型水槽が使用できるため,正常卵塊の水温躍層に対する挙動,その卵塊から浮出するふ化幼生の行動の精査など,次年度に持ち越しとなってしまった. ふ化幼生の初期餌料の探索とふ化幼生の育成実験については,スルメイカではなく,同じスルメイカ類のアカイカでの検証実験を行うことになった.これは,洋上では再生産海域の表層水を採集して,その中の有機けんだく物(DOM)の濃縮とふ化幼生飼育水槽への添加ができるためであった.しかし,それでも最長ふ化後8日間しか育成できなかった.これについては,次年度への繰り越し課題となってしまった.次年度は,より精度の高いふ化幼生の餌の探索のため,再生産海域で実際に採集したふ化幼生の胃内容物のDNA分析により,餌種を特定する.また,人工的で無菌のDOMの作成を行って,ふ化幼生の初期餌料を検察したい.
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今後の研究の推進方策 |
スルメイカの飼育実験による再生産仮説の新構築については,H26年6月2日に開所する「函館国際水産・海洋総合研究センター」の300トンの大型の実験水槽が使用できることになっている.この水槽は,世界でも初めての研究目的に利用できることから,本申請研究の遂行にも大変重要である.まず,H26年度は,5月末から餌種である生きたカタクチイワシ(約1万尾)と,7月中旬には未成熟のスルメイカ(約200個体)の混泳飼育を2カ月程度実施する.この間の,群れ間での集群・離散行動,捕食行動,そして成長・成熟過程などを精査する.これには,H25年度の本申請研究の成果を活用し,大型水槽の水温制御による,成長と成熟のトレードオフを人為的にコントロールする.また,この水槽は,水深が6.5mあるため,下層を15℃以下,表層を20℃以上にした水温躍層が再現できる.この中でのスルメイカの産卵行動,卵塊の躍層に対する挙動,卵塊からのふ化幼生の浮出と遊泳行動,さらに簡易ろ過した自然海水の注入による大型水槽内でのふ化幼生の摂餌・成長の可能性を見出すことが見込まれる.また,実際にふ化幼生が摂餌するDOMのもととなる生物種の特定にDNA分析を行うため,餌種の特定が前進できる.こうした実験は2年間継続できるため,資源変動解析に不可欠な再生産仮説の新構築ができると確信している. さらに,季節別発生群の再生産・加入・回遊モデルにも,前期の研究成果が活用できるため,過去の資源変動の検証と,今後の季節別発生系群の分布域・再生産海域の拡大・縮小や,その資源変動予測手法の構築を目指す.
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次年度の研究費の使用計画 |
H25年度に購入予定であった飼育用加温冷却機(アクア社,HC2203A/2.2kw型,価格:約140万円)が,H26年度に持ち越しとなった。この理由として,現在使用する2台の加温冷却機のうち,148カ月の使用期限を超えている1台の加温冷却機が,H25年度中も順調に稼働していた。そのため,H25年度に購入予定であった飼育用加温冷却機(アクア社,HC2203A/2.2kw型,価格:約140万円)を購入しなかったため。 H26年9月から開始する10トン円形水槽の飼育海水の加温冷却に使用する。すでに,前年度のスルメイカの飼育実験で,摂餌・成長と成熟,そして排卵から産卵まで,飼育水温をコントロールすることによって,人為的に制御可能となっている。そのため,既存の2台の加温冷却機の1台を,新しい加温冷却機に取り換え,水温調整に使用する。
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