研究課題/領域番号 |
25292118
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研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
坂本 崇 東京海洋大学, 海洋科学技術研究科, 教授 (40313390)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ウイルス / 耐病性 / 遺伝子 / ゲノム / 育種 / ヒラメ / マーカー選抜育種 / MAS |
研究実績の概要 |
(1)リンホシスチス(LD)耐病性遺伝子座ゲノム領域内に存在する遺伝子の発現解析 解析家系にLD人為感染実験を行い、およそ1ヶ月間隔で3ヶ月間(初期・中期・後期)、遺伝子の発現解析用のサンプリングを行った。これまでに限局化した耐病性遺伝子座ゲノム領域(134Kb)に存在すると推定した11遺伝子について、耐病性形質との関連性を検討するため、各遺伝子内にPCRプライマーを設計しRNAサンプル(頭腎・脾臓・肝臓・表皮)を用いて、人為感染実験中の遺伝子発現動態を解析した。その結果、初期では頭腎、脾臓において細胞膜の構成タンパクをコードする遺伝子G、中期では頭腎において免疫関連遺伝子C及び細胞膜輸送系の遺伝子D、後期では表皮において免疫関連遺伝子B、肝臓においてテロメア構造の維持に関わる遺伝子Jの発現量がLD耐病性個体群において有意に高く、回復初期の頭腎において遺伝子Gの発現量がLD非耐病性個体群で有意に高いことが明らかになった。 (2)リンホシスチス耐病性遺伝子座ゲノム領域内に存在する遺伝子の塩基配列比較解析 限局化したLD耐病性候補領域に相当するゲノム配列をもとに、新たに2種類のソフトウェアを使用し、遺伝子構造を予測した。これにより遺伝子の候補が2つ追加された(遺伝子N, M)。限局化した耐病性遺伝子座ゲノム領域(134Kb)に存在すると推定した13遺伝子について、各遺伝子の翻訳領域を単離し、LD抵抗性個体群とLD非抵抗性個体群間でゲノムDNAの塩基配列比較を行った。これにより、遺伝子Aで2ヶ所、遺伝子Bで1ヶ所、遺伝子Cで3ヶ所、遺伝子Jの6ヶ所の一塩基多型(SNP)を検出できた。特に遺伝子Bと遺伝子Cにおいて確認されたSNPに関しては、重要な機能ドメイン領域内に位置しており、遺伝子機能に及ぼす影響が大きい可能性があると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)リンホシスチス(LD)耐病性遺伝子座ゲノム領域内に存在する遺伝子の発現解析においては、初期では頭腎、脾臓において細胞膜の構成タンパクをコードする遺伝子G、中期では頭腎において免疫関連遺伝子C及び細胞膜輸送系の遺伝子D、後期では表皮において免疫関連遺伝子B、肝臓においてテロメア構造の維持に関わる遺伝子Jの発現量がLD耐病性個体群において有意に高く、回復初期の頭腎において遺伝子Gの発現量がLD感受性個体群で有意に高いことが明らかになった。これにより、研究計画で考えていた発現解析から原因遺伝子の絞り込みに成功したため、研究は順調に進展していると判断した。 (2)リンホシスチス耐病性遺伝子座ゲノム領域内に存在する遺伝子の塩基配列比較解析においては、限局化した耐病性遺伝子座ゲノム領域(134Kb)に存在すると推定した13遺伝子について、LD耐病性個体群とLD感受性個体群間で遺伝子内の塩基配列比較を行い、アミノ酸置換を生じる多型を4遺伝子領域内に検出した。これにより、研究計画で考えていた配列情報解析から原因遺伝子の絞り込みに成功したため、研究は順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
(1)リンホシスチス耐病性遺伝子座ゲノム領域のゲノムDNA塩基配列比較解析 これまでに発現解析、遺伝子内の塩基配列比較解析により、原因遺伝子の絞り込みに成功しているが、未知の原因遺伝子においては、LD耐病性系統とLD感受性系統間で発現差異や遺伝子翻訳領域内の変異が関連性がない可能性も考えられる。そこで候補遺伝子の翻訳領域に限らず、限局化された耐病性遺伝子座ゲノム領域(134Kb)において、LD耐病性系統とLD感受性系統間に存在するSNPの探索を行う。その際、LD耐病性系統とLD感受性系統において次世代シーケンサーを用いたリシークエンス法による解析を行い、LD耐病性遺伝子座に存在する変異性を検出する。 (2)天然魚を用いたリンホシスチス耐病性遺伝子候補遺伝子の変異率の推定 リンホシスチス耐病性遺伝子候補をさらに絞り込むためには、天然魚を用いてリンホシスチス病への罹患の有無とリンホシスチス耐病性遺伝子候補や発現調節領域内等の変異との関連性を解析する必要がある。しかしながら、天然集団に耐病性形質を担う(遺伝子)変異を保持する個体が非常に少ない場合、膨大な個体数の天然魚を用いてリンホシスチス病人為感染実験を行わなければならない。一般種苗生産現場で生産されたヒラメの多くが、養殖場でリンホシスチス病に罹患していた状況を考えれば、天然集団に耐病性を担う遺伝子変異を保持する個体が非常に少ない可能性が強く示唆される。そこで、これまでに明らかにしたリンホシスチス耐病性遺伝子座ゲノム領域の遺伝子に存在する耐病性系統と感受性系統間の変異について、天然集団における変異率を解析する。それにより、天然魚を用いてリンホシスチス病への罹患の有無とリンホシスチス耐病性遺伝子候補や発現調節領域内等の変異との関連性を解析する準備を完了する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題は順調に進展し、当初の計画通りに成果が得られた。平成26年度中に、平成27年度に解析を予定していた天然魚のサンプルが入手できる目処がたったため、それらを他のサンプルと同時に次世代シーケンサーでの解析を実施した方が解析効率が良く経済的で、その結果を受けてさらに、次世代シーケンサーでの大規模解析を実施すべきか否かの判断をする方が研究進展によいと考えられた。このように、経費のかかる次世代シーケンサーでの解析に関して、より効率的な解析を行なうために、一部を次年度以降に持ち越すこととした。
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次年度使用額の使用計画 |
予定通り、次世代シーケンサーによる解析を実施するとともに、天然魚での関連解析に必要な効率的な解析方法を探索する。
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