本年度の主な成果は以下の2点である。
1)ストレス耐性に関わるコルチコトロピン放出ホルモン(CRH)ファミリーペプチドに属する新規の遺伝子、テレオコルチン(TCN)を発見し、その発現と生化学的特性を解析した結果を論文にまとめた。TCNは終脳、視索前野、視床下部、中脳被蓋、延髄の神経核で発現しており、いずれの神経核においても、TCNを発現するニューロンの大半はCRHも共発現していることが明らかとなった。また、これらの神経核中のニューロンは下垂体に投射していないと考えられていることから、TCNは下垂体-間腎腺軸の制御には直接関与せず、それ以外の役割を有すると考えられた。TCNはCRHと同等か、それよりもわずかに高い程度にCRH受容体を活性化することも明らかとなった。TCNは発現部位も受容体の活生化能もCRHと類似していることから、TCNはCRHと共通の生理的役割を担っていると考えられた。
2)グルココルチコイド受容体の一種(GR1)の脳内での発現に性差があることを見出し、その成果を論文にまとめた。GR1は視索前野と視床下部の神経核でメスで高い発現を示すこと、さらには、攻撃性や繁殖行動に関わるとされる視索前野のバソトシンニューロンとゴナドトロピン放出ホルモン1ニューロンにおけるGR1の発現は、メスの方が高いことが明らかとなった。また、代表的なグルココルチコイド種であるコルチゾルの個体あたりの量はオスよりもメスの方が高いことが明らかとなった。グルココルチコイド-GR1シグナルのメスに偏った性差が、これらのニューロンを介して、ストレスが攻撃性や繁殖行動の制御機構に及ぼす影響に性差をもたらしている可能性が示唆された。
|