研究課題/領域番号 |
25292125
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研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
近藤 秀裕 東京海洋大学, その他部局等, 准教授 (20314635)
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研究分担者 |
廣野 育生 東京海洋大学, その他部局等, 教授 (00270926)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 免疫学 / バイオテクノロジー |
研究実績の概要 |
平成28年度は、免疫グロブリン産生細胞一細胞よりRNAを抽出しcDNAを合成するための端緒として、少数の細胞から抽出したRNAを鋳型としてPCRにより目的遺伝子を増幅するための手法の開発を試みた。魚類培養細胞を用いた予備実験では、10細胞程度から得られたRNAから合成したcDNAを鋳型として遺伝子断片を増幅することができた。そこで、白血球より抗体産生細胞を分取し同様の実験を試みたが、細胞が少ないと遺伝子を増幅することが出来なかった。現在、実験条件を詳細に検討中である。 魚類IgMを検出するための抗体を作製するために、魚類抗体に保存された領域をコードするペプチドおよび組換えタンパク質を用いてウサギを免疫し、抗血清を得た。本抗血清はウエスタンブロット解析では魚類IgMを検出することが可能であるが、ELISA法では魚類IgMと結合しないことが示された。 魚類の抗体産生細胞の活性化機構を解析することを目的として、アジュバントを用いて免疫した際の免疫応答についてヒラメを用いて解析した。アジュバントとしてフロイントコンプリートアジュバントを用い、ヒラメを細菌のホルマリン死菌で免疫したところ、菌体に対する抗体価が顕著に上昇した。マイクロアレイを用いた解析により、アジュバントの添加によりインターフェロンγ(IFNγ)遺伝子およびIFNγ応答遺伝子の発現上昇が抑えられることが示された。 さらに、次世代シークエンサーを用いた発現遺伝子解析により、抗体産生を制御するものも含め64種類の主要なサイトカイン遺伝子を同定し、これらの遺伝子の網羅的な発現動態を解析するための手法を開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では魚類IgMをベースとした人工モノクローナル抗体を調製することを目的としている。平成28年度は、少数の魚類抗体産生細胞からRNAを抽出し、これを鋳型として目的とするIgM遺伝子を増幅するための方法を検討した。培養細胞を用いた検討では目的の遺伝子を増幅することができたことから、さらに条件を検討することにより、抗体産生細胞からIgM遺伝子を増幅することが可能となると期待される。本手法をこれまで検討してきた抗原特異的な抗体産生細胞の単離法と組み合わせることにより、抗原特異的なIgMの遺伝子配列を決定することが可能となると考えられる。 また、魚類IgMは魚種間でアミノ酸同一律が低く、異なる魚種を対象として実験する際にはその魚種特異的な抗IgM抗体を調製する必要が生じる。この点を克服する目的で、様々な魚種由来のIgM間で保存されている領域に対する抗体を調製し、その性状を検討した。得られた抗体はいずれも変性したIgM分子のみを認識可能であったことから、さらに検討を重ねて未変性の分子を認識できる抗体を作出する方針である。 魚類が特異抗体を産生する機構はほ乳類のものと似通っていると考えられる。本研究では、抗体価の上昇を促進するアジュバントがIFNγの誘導が抑えられることを明らかとした。IFNγは細胞性免疫を活性化し、特異的な抗体産生を抑制することがほ乳類で知られていることから、アジュバントがどのようにIFNγの誘導を抑制するのかに興味が持たれた。本研究では既に、新規のものを含むヒラメのサイトカイン遺伝子を多数同定していることから、これらが上述の現象にどのように影響を及ぼすのかについて今後の解析が待たれる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに検討してきた抗原特異的なIgMを産生する細胞の分離法を用いて得られた細胞からRNAを抽出し、IgM重鎖および軽鎖の可変領域をコードする遺伝子断片をPCRにより増幅する。得られた遺伝子断片を用いて一本鎖可変領域の組換えタンパク質を調製し、抗原に対する親和性を解析する。 幅広い魚種を対象として魚類IgMを検出し定量することが可能な分子を調製するため、様々な魚類由来のIgMに対して結合することが可能なアプタマーの作出を試みる。 アジュバントが抗原に対する抗体価を上昇させる機構を明らかとするためIFNγに着目し、その転写調節機構を解析するとともに、種々のサイトカイン遺伝子の発現調節機構についても検討する。
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