平成29年度は、抗原特異的な免疫グロブリンを産生する1細胞からRNAを抽出し、免疫グロブリン遺伝子断片を増幅することを試みた。これまでの研究で種々の魚類のうち、チョウザメ血中には様々な抗原に対して特異的な抗体が多く含まれていることを明らかとした。そこで、チョウザメ抹消白血球に対して蛍光標識した病原細菌を反応させ、蛍光がみられた細胞をマイクロキャピラリーで採取した。蛍光がみられた5つの細胞からcDNAを合成したところ、1つのサンプルで免疫グロブリン遺伝子が増幅できた。本結果より、魚類の抹消白血球より抗原特異的な抗体遺伝子を同定できる可能性が示された。 また、魚類抗体を特異的に検出する新たな手法を開発するため、IgMに結合する分子としてFcレセプターに着目し、抗体との結合を解析した。魚類のFcレセプターは、IgMと特異的に結合することが示されたものの、病原微生物に対しても結合能をもつことから、抗体の検出あるいは性状解析への応用は難しいことが示された。さらに、ファージディスプレイ法により、魚類IgMに結合するウサギscFv遺伝子の単離を試み、候補クローンを得ることに成功した。現在、各クローンの結合能を解析している。 一方、抗原投与に伴う特異的な抗体産生を効率的に誘導するため、フロイントアジュバントの作用機序を解析した。フロイントアジュバントは魚類においても病原微生物抗原に対する抗体価を高めることが示されたが、いくつかのタンパク質抗原に対しては抗体誘導能が顕著にはみられなかった。ヒラメを用いた解析で、フロイントアジュバントは病原微生物不活化菌体によるIFNγ遺伝子の発現誘導を阻害したことから、病原微生物不活化菌体の構成成分のうちIFNγ遺伝子の発現誘導に関わる因子を解析したところ、ペプチドグリカンおよび細菌のDNAが強く関与していることが示された。
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