研究課題/領域番号 |
25292161
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
吉村 幸則 広島大学, 生物圏科学研究科, 教授 (10167017)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 鳥類 / 卵管 / 感染防御 / 抗菌ペプチド / サイトカイン / Toll様受容体 / 転写因子 / 炎症 |
研究実績の概要 |
本研究は、微生物関連分子パターン認識受容体のToll様受容体(TLR)による微生物認識と、その下流で抗菌ペプチドのトリβディフェンシン(AvBDや炎症性サイトカイン産生に寄与する情報伝達機構を明らかにすることを目的としている。TLR3、4、21はそれぞれdsRNAウイルス、グラム陰性菌リポ多糖(LPS)、非メチル化CpG-DNAを認識する。H26年度はこれらのリガンドで培養卵管膣部細胞を刺激すると、AvBD発現には影響しないが、炎症性サイトカインの発現が上昇し、この上昇は転写因子のNFκBの阻害剤(BAY11-7085)で抑制され、他の転写因子であるAP-1(c-fosとc-jun)阻害剤(TanshinoneⅡA)では影響されないことを示した。本年度はTLR5と7により認識される細菌鞭毛成分(フラジェリン)とssRNAウイルス成分(R848)がAvBDと炎症性サイトカインの発現に及ぼす影響とこれに関わる転写因子を検討した。さらに、すべてのTLR刺激は炎症性サイトカインの発現を誘導したので、炎症時に増加するプロスタグランディン(PG)がAvBD発現に関わる可能性を検討するために、卵管におけるPG合成酵素のCOX1と2の発現を解析した。その結果、フラジェリンとR848も膣部細胞のAvBD発現には影響しなかったが、炎症性サイトカイン(IL-1β、IL6、IFNγの発現が上昇させた。このサイトカイン発現の上昇は転写因子であるNFκBの阻害剤で抑制されたが、AP-1阻害剤の影響は受けなかった。このことから、細菌鞭毛フラジェリンとssRNAウイルスもTLR下流でNFκBを介して炎症性サイトカインの発現を誘導することが示唆された。さらに、卵管ではCOX1と2の発現が検出され、微生物による炎症がPG産生を増加させてAvBD発現を誘導する可能性を追究する手がかりを得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の実験により、微生物関連分子パターンを認識する5種類のTLRのすべてで、リガンドと結合すると、AvBD発現への影響は見られないが、IL-1β、IL6、IFNγの発現が増加し、この過程の細胞内情報伝達系で作動する転写因子にはNFκBがキーになることを確定できた。感染と炎症との関係をとらえるとプロスタグランディンの関与も推定される。本年度の実験でプロスタグランディン産生酵素(COX)の解析を行う準備もできて、概ね進行は順調である。
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今後の研究の推進方策 |
病原微生物による感染は炎症を引き起こすので、抗菌ペプチドやサイトカインの発現制御に、炎症の発生時に産生されるプロスタグランディンの関与を推定している。H27年度の実験でプロスタグランディン産生酵素(COX)の解析を行う準備もできた。今後は、感染に続いて起こる実質的な現象である炎症に照らして、感染とプロスタグランディン合成酵素発現との関係、そしてプロスタグランディンが抗菌ペプチド(AvBD)発現に及ぼす影響を解析して、新規性の高い抗菌ペプチド産生の調節機構を追究する。
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