研究課題
基盤研究(B)
分化初期の衛星細胞が合成・分泌するSemaphorin 3A (Sema3A)が筋細胞特異的転写制御因子myogenin依存的に筋線維型を制御する細胞外リガンドであることを検証するため、実験計画1と2を実施した。RT-qPCRおよびwestern blottingによる実験結果の概要は以下の通りである。先ず、マウス衛星細胞株のSema3A発現をRNAi法(RNA干渉法)によってノックダウンする実験系を確立し、myogeninと成熟型ミオシン重鎖 (MyHC) の発現に及ぼす影響を調べた。Sema3A 特異的siRNAをリポフェクションすると、myogeninの発現が有意に抑制されるとともに、type I MyHC発現レベルが減少し、これに遅れてtype II MyHCの発現レベルが代替的に増加することを観察した。type I/II MyHCを特異的に認識する抗体を用いてを蛍光染色したところ、遅筋型筋管の形成が有意に阻害されており、この結果は上記の観察結果と符合した。また、myogeninの発現を同様にsiRNAでノックダウンするとSema3A発現には全く変化はなく、type I MyHCの発現レベルが有意に減少することも確認した。両ノックダウン系において、myogeninの共役制御因子であるMEF2DとHDAC7の発現が有意に減少することも明らかにした。これらの結果から、分化した衛星細胞(筋芽細胞)が融合し筋管(幼若な新生筋線維)を形成する際にSema3Aリガンドを合成・分泌し、自らの筋線維型を遅筋型へと初期決定するシグナリング機構 (Sema3A-myogenin/MEF2D/HDAC4-type I MyHCからなるシグナリング軸)、即ち、「筋線維型の自律制御機構」が存在すると考えられた。遅筋型筋線維が優勢なヒラメ筋の衛星細胞はEDL筋(代表的な速筋)のそれに比べSema3Aの発現量が有意に高いことは、上記の分子機構の妥当性を支持している。
2: おおむね順調に進展している
初年度に予定していた3つの実施計画のうち2つは終了し、前述の通り良好な実験結果を得た。即ち、衛星細胞株を用いたin vitro実験系において、Sema3Aが遅筋型筋線維の形成を誘導する初期決定因子であることを証明できた。また、その細胞内シグナリングには筋特異的制御因子myogeninとその共役調節因子MEF2DとHDAC7が関与することも明らかにした。これらの知見は、分化初期の衛星細胞が合成・分泌するSema3Aリガンドによって筋管(将来、筋線維へと成熟する)の線維型が自律的に決定されることを示しており、これまでの運動刺激説やPPARdelta/PGC1alpha転写制御説と本質的に異なる新規の制御機構であると期待される。後述のin vivo実験での直接証明を待って、本研究成果を著名な学術雑誌に投稿する予定である。
in vitroの実験結果の生理学的重要性を直接証明するため、衛星細胞特異的Sema3Aコンディショナルノックアウトマウス(Sema3A-cKOマウス)を用いたin vivo実験を早急に開始する予定である。マウスの作出は既に成功しており、4月下旬から実験を開始すべく準備を進めている。Sema3A-cKOマウスの後肢下腿部筋を物理的あるいは化学的に損傷させ筋再生を誘導する実験をデザインしており、この場合、衛星細胞からSema3Aが合成・分泌されないため遅筋型筋線維が形成されず、筋線維型組成(遅筋・速筋型筋線維の組成比)が元の状態に復帰しないと予想している。極めて重要かつインパクトのある実験結果になると期待している。実験の再現性も含めて確実に実施する所存である。
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