研究課題
基盤研究(B)
現在までに確かにcesp 3’UTR中にはその上流にある遺伝子をEMF時期特異的に発現させる機能があることを明らかにしている。過去の研究成果から考察すると、この作用は遺伝子転写の亢進というよりは、転写後のmRNA安定化によると考えられた。そこで遺伝子発現時期調節においてコアとなる部分をcesp 3’UTR中から同定するため、さらに同UTRを細分化して以下に述べる実験を実施した。すなわち、cesp 3’UTRをA/TリッチなARE領域とそれ以外のFront領域に分割し、それらを欠損させたcesp 3’UTR、またはいずれかを付加したactin 3’UTRをレポーター遺伝子(egfp)に結合してトリパノソーマのゲノムに挿入し、カラーコード原虫を作製してEGFPの発現量をフローサイトメトリーとリアルタイムRT-PCRで定量した。ここで用いたactinは原虫の全ステージで発現量が一定であるため、cesp 3’UTR断片の作用を検証するコントロールとして利用した。その結果、EMF時期特異性に必須な最短配列(コア配列)を同定し、その成果を論文発表した(Suganuma et al. 2013 Molecular and Biochemical Parasitology 191: 36-43)。コアとなる発現調節領域が予定よりも早く同定できたことから、当初計画では平成26年度に計画していた調節領域と相互作用する蛋白因子の同定を開始した。その結果、EMFステージ特異的な蛋白質群がcesp 3' UTRと相互作用していることを明らかにした。以上の研究成果は世界に先駆けてアフリカトリパノソーマEMFステージ特異的遺伝子の発現調節メカニズムを明らかにしただけでなく、伝播阻止ワクチン開発の手掛かりとなるトリパノソーマの発育分化に関わる重要な遺伝子発現調節メカニズムを明らかにした点に意義がある。
1: 当初の計画以上に進展している
今年度中に明らかにすることを予定していたEMF特異的発現調節領域の同定に成功し、次年度予定していた同発現調節領域と特異的に相互作用する蛋白因子の同定にまで研究が進展したことから、本研究計画が当初計画以上に進展したと判断した。
EMF特異的遺伝子発現調節配列の同定と、特異的蛋白因子(RNA結合蛋白質)の存在が確認できたことから、今後蛋白因子の同定、クローニング、機能解析を実施する。EMFトリパノソーマはグラム単位の純粋な原虫細胞が大量培養系で調製可能であるため、蛋白因子同定で実施するアフィニティ―クロマトグラフィーなどの生化学実験に使用する細胞質サンプルの確保は容易である。cesp 3’UTRやそのコア配列に結合する蛋白因子の存在は上述した分離精製実験を実施すると同時に、RNAゲルシフトアッセイによってその存在を証明し、RNA-RNA結合蛋白複合体のRNA分解酵素抵抗性を利用したタンパク因子結合コア配列の同定も試みる。得られるRNA結合蛋白質は複数種である可能性が高い。それぞれの蛋白因子について部分アミノ酸配列の決定を実施し、我々が過去に発表したトリパノソーマ全発育期ESTデータベースとプロテオームデータベースを参照し、必要であれば独自にトリパノソーマ前ゲノム配列を決定してそれぞれの蛋白因子をコードする遺伝子をin silicoクローニングする。さらにオルソログをBLAST検索によって見つけ出してmRNAの安定化や不安定化において同定したそれぞれの蛋白因子がどのような役割(機能)を果たしているか明らかにするためのヒントを得る。現時点では研究計画の変更や問題点は無い。
研究計画が予定よりも早く進展し、次年度に計画していたEMF特異的遺伝子発現調節に関与する蛋白因子同定を平成25年度に開始したが、すべての蛋白因子の同定と機能解析が終了しなかった。よって次年度に一部の研究費を繰り越して蛋白因子解析の予算に充てるため。平成25年度に解析が終了しなかった蛋白因子解析分として次年度使用額分の予算を充て、平成26年度に新たに実施する蛋白因子の同定と解析、およびトリパノソーマ遺伝子情報解析に当初計画通りの平成26年度予算を充てる。
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Molecular and Biochemical Parasitology
巻: 191 ページ: 36-43
10.1016/j.molbiopara.2013.09.001
Parasitology Research
巻: 112 ページ: 3357-3363
10.1007/s00436-013-3515-z