研究課題/領域番号 |
25292170
|
研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
渋谷 淳 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (20311392)
|
研究分担者 |
吉田 敏則 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (80726456)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 発達神経毒性 / ニューロン新生 / 海馬歯状回 / 毒性評価法 / メチル化変動 |
研究実績の概要 |
本研究では、学習・記憶の中枢である海馬歯状回のニューロン新生に着目し、ラットとマウスを用いて、神経毒性物質の発達期暴露による神経幹細胞の他、シナプス・軸索や髄鞘の形成過程を標的とした傷害機序を解明する。更にマウスで、新生ニューロンに受け継がれる遺伝子のメチル化変動を網羅的にスクリーニングし、マウスとラットで影響の不可逆性が評価可能な指標を確立する。26年度は、脱髄誘発性のヘキサクロルフェン(HCP)についてマウスとラットで検討し、両種に共通してニューロン新生の分化中期の傷害性と、それに対するコリン作動性入力障害の関与の可能性を見出した。また、25年度に胎生期短期間投与影響を検討した神経幹細胞の増殖・移動阻害物質であるメチルニトロソ尿素 (MNU)について、マウスで今度は持続的投与影響を検討し、分化初期の傷害性を示唆する幹細胞の可逆的増加を見出した。25年度に検討を始めた軸索末端傷害物質の3,3'-イミノジプロピオニトリル (IDPN)では、マウスとラットに共通して分化後期の傷害性を見出し、マウスでは影響が不可逆的であった。また、マウスのHCPとIDPN暴露例の海馬歯状回での次世代シークエンシング解析による過メチル化遺伝子を同定した。一方、成熟マウスにマンガン(Mn)を暴露し、脳内にMnが蓄積する投与期間で発達期暴露と同じニューロン新生の分化後期障害性とPvalb発現の下方制御を見出したが、下方制御は発達期暴露とは異なって過メチル化に依らず、蓄積Mnの毒性による顆粒細胞のBDNFシグナルの低下による可能性が示された。更にマウスのMn発達期暴露で過メチル化した形態形成遺伝子Mid1に着目して、ラットの発達期甲状腺機能低下によるニューロン新生障害時でのMID1とSHHの発現細胞の分布を検討し、いずれも暴露終了時で発現の左右差が消失し、MID1は成熟後まで持続することを見出した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
IDPNの発達期暴露実験では、ラット、マウス共にニューロン新生の分化後期の傷害性を見出し、ラットではニューロン新生障害にBDNFシグナリングと介在ニューロンの傷害が関与し、マウスでは更に影響は不可逆的であることを見出している。これによりIDPNによるニューロン新生障害の特性が種を超えて共通していることが明らかとなり、26年度の目標は達成できた。ラットの成果については国際誌に発表し、マウスについては学会発表後に論文投稿を進める予定である。HCPの発達期暴露実験では、マウス、ラットに共通して、ニューロン新生の分化中期の傷害性と、それに対する海馬歯状回へのコリン作動性入力の髄鞘空胞化による機能障害の関与の可能性を見出した。これによりHCPによるニューロン新生傷害の特性が種を超えて共通していることが明らかとなり、ラットとマウスのそれぞれの成果を国際誌に発表し、26年度の目標は達成できた。神経幹細胞の傷害性を期待して持続投与に切り替えて実施したMNUのマウス発達期暴露実験では、海馬歯状回におけるニューロン新生障害の解析と次世代シークエンシング法による過メチル化遺伝子の探索を継続している。一方で、マウスのHCPとIDPN発達期暴露実験で得られた過メチル化遺伝子については、メチル化の検証解析が難航したが、改良を加えることで検出が可能となったため、27年度に継続して実施することとなった。メチル化遺伝子解析が進んでいないため、この方面での新たな研究として、既にマウスのMn発達期暴露によるニューロン新生障害時に歯状回で見出された過メチル化・発現低下遺伝子についての特性を明らかにするために、成熟後のマウスに対するMn暴露によるニューロン新生障害時でのメチル化変動や、ラット甲状腺機能低下によるニューロン新生障害時での分子発現細胞の変動を検討し、成果はいずれも国際誌に発表済みである。
|
今後の研究の推進方策 |
神経毒性物質の発達期暴露実験では、海馬歯状回でのニューロン新生に対する影響の標的性や反応のパターンが、ラットとマウスで本質的に変わらないことが明らかになったため、最終年度は、遺伝子発現調節領域の配列情報が明らかでメチル化遺伝子解析のしやすいマウスを対象として暴露実験を行う。神経毒性物質として、酸化ストレスに伴うニューロン新生の分化前期を標的とした障害性が期待される酢酸鉛と、ラットで既に分化後期の標的性と影響の不可逆性を見出したグリシドールを選択する。発達期暴露終了時と成熟後の反応性を比較することで、不可逆性の有無を検討する。メチル化変動による不可逆的影響指標の探索として、マウスのHCP、IDPN、MNUの発達期暴露例の生後21日目での次世代シークエンシング法による発現調節領域のメチル化変動遺伝子の網羅的探索を継続・終了する。また、既にマウスのMn発達期暴露により見出した過メチル化遺伝子であるPvalb, Mid1, Nr2f1も含めて、ニューロン新生障害時での過メチル化・遺伝子発現低下の有無を検討する。一連の検証解析の後、免疫染色が可能なものについて、海馬歯状回での発現細胞の分布変動をPVALB, MID1, NR2F1と共に検討し、遺伝子発現制御の破綻の不可逆性を検討する。次いで、得られた分子について神経毒性標的や障害メカニズムが異なるHCP, IDPN, MNU, 酢酸鉛, グリシドールの発達期暴露例での発達期暴露終了時と成熟後の脳内での発現分布解析を実施し、可逆性の有無や物質間の共通性の有無を検討する。そのため、マウスを用いたHCPとIDPNの発達期暴露実験を追加実施する。更に26年度までに終了してあるラットの発達期暴露実験での発現解析も実施し、ラットでの解析の有用性も検証する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
26年度にHBCD, IDPNのマウス発達期暴露例で次世代シークエンス法により得られた過メチル化遺伝子について、メチル化状態の検証解析が難航したため、27年度に、MNU暴露例で得られる遺伝子と共にHBCD, IDPN暴露例でも検証解析を実施する予定である。その後、抗体を用いた発現細胞の検索が可能な分子に関して、IDPN、HCP、MNU、酢酸鉛、グリシドール暴露例で免疫染色による発現細胞の分布検索を行い、毒性反応の不可逆性を含めた有効性の検討を行う必要があるため、その使用額が生じた。また、IDPNとHCPに関しては、病理解析用と遺伝子解析用のサンプルの確保も必要なため、マウスを用いた動物実験を追加で実施する。
|
次年度使用額の使用計画 |
IDPN、HCP、MNU暴露例で過メチル化遺伝子として同定された遺伝子について、メチル化特異的qPCR解析による過メチル化の検討、パイロシークエンス法によるメチル化配列の同定、real-time RT-PCR解析によるmRNA発現レベルの検討を行う。そのうち、過メチル化と発現の下方制御が確認され、抗体による発現細胞の免疫組織化学的な解析が可能なものについて、HCP, IDPN, MNU, 酢酸鉛, グリシドールの発達期暴露例での生後21日目と77日目の脳内での発現分布解析を実施し、可逆性の有無や物質間の共通性の有無に関する検討を実施・終了する。また、ICRマウスを用いて、25年度実施したIDPNと26年度実施したHCPの発達期暴露実験を再度実施し、得られた病理解析用と遺伝子解析用のサンプルも解析に使用する。
|