研究課題
基盤研究(B)
TNF Receptor Associated Factor (TRAF)はTNF receptorに属するアダプター分子であり、哺乳類では免疫反応や細胞増殖などの制御に関与する。一方、マダニは病原体を媒介する能力を持ち、人や動物に甚大な被害を与えているが、未だに有効で安全な防御法が確立されていない。今回、フタトゲチマダニ (Haemaphysalis longicornis: Hl)の吸血及び病原体感染防御において重要な役割を担うと考えられるHlTRAFの同定を行い、その特性を解明した。発育期別のマダニ及び各吸血日数別の雌成ダニ個体とその臓器のRNAと蛋白質を抽出し、HlTRAF遺伝子とHlTRAF蛋白質の発現動態を調べた。その結果、HlTRAFの発現は吸血に伴って増大するが、飽血後数週間で著しく減少することが分かった。特に、吸血後の唾液腺ではHlTRAFの発現が顕著であった。すなわち、HlTRAFを含むシグナル経路は吸血によって活性化されるが、その活性は飽血後数週間で失われる可能性があると考えられた。また、間接蛍光抗体法によりHlTRAFはマダニの唾液腺、中腸、卵巣の細胞膜付近に局在していることが分かった。さらに、HlTRAFをノックダウンすると、成ダニの吸血及び産卵数に影響は出なかったが、マダニの自然免疫関連分子であるディフェンシン様分子の発現が抑制された。これらのことより、HlTRAFはマダニの吸血や産卵には影響しないが、マダニの自然免疫系を制御する重要な分子である可能性が考えられた。
2: おおむね順調に進展している
Toll情報経路を構成するレセプターの同定を試みたところ、その下流を制御することが予想されるTRAF分子の同定・特性について解析することができた。引き続き、Toll情報伝達経路を制御することが予想されるその他のTRAF分子の同定・特性について解析を進めると同時に病原体に対する感染防御能について調べていくつもりである。
今後は申請者らが分離・特性に成功している各種マダニ生物活性分子に関する最新知見を活用し、マダニの吸血・繁殖生理と病原体感染防御におけるTRAF分子の役割を明確にすることを目的とする。ショウジョウバエではTRAF経路が病原体に対する感染防御に関与するだけではなく、胚形成に重要な役割を果たしているため(Valannneら, 2011)、マダニにおいてもTRAF経路が胚形成や産卵に大きく関与している可能性が予想される。具体的には、フタトゲチマダニのESTデーターベースから新たなTRAF分子のcDNAを単離して、それらの組換え体を作製する。また、組換え体から得られた抗体を用いたTRAF分子の特性・機能、動態の解明を行うとともに、RNA干渉法によって、遺伝子・タンパク質レベルでのTRAF分子の発現の阻害と動態並びにマダニの傷害・殺滅の程度を検証する。
平成25年度購入予定のプレートリーダーが共同利用施設にあったため、本研究費で機器を購入する必要がなくなったので、平成26年度予算へと繰り越した。平成26年度の予算使用計画は分子生物学用消耗品が主であり、その他、旅費、人件費・謝金、論文投稿料として使用するつもりである。
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