内臓脂肪の蓄積を特徴とする肥満症は、動脈硬化症の主要なリスク因子である。蓄積内臓脂肪と動脈硬化発症リスク上昇との因果関係を説明する新たな液性因子として脂肪組織から分泌されるアディポサイトカインがきわめて重要である。動脈硬化症は様々なリスク因子や病態プロセスからなる複雑な慢性疾患であることから、アディポサイトカインによる動脈硬化発症または予防の機序の全体像を明らかにするために、本研究計画は、動脈硬化症のリスクや病態進展過程に関わる様々なプロセスや細胞・組織応答に及ぼす新規のアディポサイトカインの影響について細胞、組織レベルで網羅的に解析するとともにin vivoモデル動物を用いて検証することを目的とした。 本年度は、(1)アディポサイトカインprogranulinが摘出動脈組織においてNOドナーによる弛緩反応をcGMP産生の増大を介して増強することを明らかにし、学術論文として公表した、(2)アディポサイトカインFABP4に対する特異的阻害薬がin vitroとin vivoにおいて血管保護作用を有することを明らかにし、海外の学術集会で発表するとともに学術論文として公表した、(3)アディポサイトカインvaspinが肺動脈壁の繊維化抑制を介して肺高血圧症の進展を抑制することを明らかにし、国内学会で口頭発表するとともに学術論文にまとめ投稿した、(4)アディポサイトカインchemerinの摘出動脈組織における収縮作用とその機序に関して国内学会で口頭発表した。さらにこれまで明らかにした様々なアディポサイトカインの血管作用とそれらによる新たな肺高血圧症の制御機構と創薬標的としての可能性に関してシンポジウムで講演した。
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