研究課題
本研究では、各種動物遺伝子病について、機能的および位置的解析法を用いて原因変異を明らかにし、遺伝子型検査法や診断法を開発して、集団内の遺伝子頻度を調査することを目的として実施した。また、新規治療法開発のための研究計画にも着手した。犬疾患では、トイプードルの家族性成犬発症型運動失調症については、発症犬30頭および非発症対照犬30頭を用いて、イルミナ社の全ゲノムスニップアレイによるゲノムワイド関連解析を実施した。その結果、第3染色体の部分に関連領域を見出し、その領域の数種の遺伝子を解析した。しかし、現時点までには、候補となる原因遺伝子および原因変異を確定できておらず、解析は継続中である。一方、チワワの神経セロイドリポフスチン症については、CLN7遺伝子のコード領域に2塩基欠失を同定した。この変異は、近年報告されたチャイニーズクレステッドドッグ孤初例の候補変異と同一であったため、本変異が同疾患の原因となることが示唆された。猫疾患では、GM1ガングリオシドーシスの新規2変異(2塩基欠失および1塩基置換によるナンセンス変異)について、分子疫学調査を行ったが、両変異ともに頻度は0.1%以下であった。また、エーラスダンロス症候群においては、皮膚脆弱症に関連する遺伝子であるADAMTS2およびCOL5A1遺伝子について、それらのコード領域を調べた。しかし、候補変異は認められず、現在COL5A2遺伝子を解析している。また、ガングリオシドーシスの免疫染色を用いた新規診断法を開発した。治療試験では、β-ウレイドプロピオナーゼ欠損症の猫2例に対して、アンモニア生成を軽減する処方食(ヒルズl/d)の効果を検討した。その結果、血中アンモニア濃度は低下傾向を示し、処方前の下痢および被毛粗剛の症状が改善した。したがって、本処方食は本疾患の補助療養として有効であることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
解析したすべての遺伝子病の病原性変異同定には至っていないが、その内の2疾患3変異(犬1疾患、猫1疾患2変異)については新たに病原性変異を同定し(チワワの神経セロイドリポフスチン症)、新規遺伝子型検査法(同3変異ともTaqManプローブによるリアルタイムPCR法)を開発した。また、猫のGM1ガングリオシドーシスの2変異については疫学調査も実施し、純血種および雑種猫集団における変異アレル頻度も明らかにした。現時点で原因変異が明らかになっていない疾患においても、一定の解析を進めることができ、多くの候補遺伝子を除外するに至っており、原因変異解明に近づいている。その中でもトイプードルの家族性成犬発症型運動失調症については、ゲノムワイド関連解析を実施することができたことは、この後の解析にとって非常に大幅な進展となった。また、その他の疾患(犬猫のカナバン病、猫のキサンチン尿症、猫の神経セロイドリポフスチン症)は、確認実験によってほぼ原因変異が同定できる段階であり、来年度には報告可能となる。さらに、治療試験については、猫のβ-ウレイドプロピオナーゼ欠損症について処方食を用いた研究を実施することができ、その有効性を証明できた。本症の発症例は、純血種猫および雑種猫の両集団においても非常に多いことがわかっているため、既存の処方食が治療に有効性を示すことが判明したことは今後の治療戦略に大きく貢献するものと考えられる。上記のような成果に基づいて判断すると、本年度も概ね順調に計画を実行して、着実な成果を上げることができていると考えられる。
現在調査を継続している疾患(カナバン病、チロシン尿症、キサンチン尿症、神経セロイド・リポフスチン症、メトヘモグロビン血症、メチルマロン酸尿症、骨形成不全症、など)については、病原性変異を同定するために予定どおり研究を推進していく。また、今後の治療研究に応用していく予定の猫のサンドホフ病および犬の捕捉好中球症候群については、抗炎症・免疫抑制療法を実施予定である。さらに、今年度に新たに研究対象として加わった疾患(オロット酸尿症、クラッベ病、など)についても本研究課題の一部として新たに取り込んで、これらの分子基盤の解明を推進していく。
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