研究課題/領域番号 |
25292186
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
海老原 史樹文 関西学院大学, 理工学部, 教授 (50135331)
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研究分担者 |
高田 耕司 東京慈恵会医科大学, 医学部, 教授 (30179452)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | マウス / 行動 / 脱ユビキチン化酵素 / 概日リズム / 児童虐待 |
研究実績の概要 |
児童虐待は、一時的に子供に影響を与えるだけでなく、子供が成長した後の将来にわたって継続的に影響を及ぼし、虐待が虐待を生む世代間連鎖や、虐待を受ける児童の成長後の犯罪率の高さ、うつ病などの精神疾患発症率の増加など極めて深刻な影響を児童に与える。我々は、強制水泳や尾懸垂テストにおける無動行動を制御する遺伝子Usp46を特定した。この遺伝子の変異マウスは、児童虐待に極めて類似した特徴を示すことから、児童虐待の優れたモデル動物になると考えられた。そこで、本研究では、Usp46変異マウスを児童虐待のモデル動物として活用し、以下の実験を行った。 1.USP46脱ユビキチン酵素の基質同定:Usp46の基質をLC-MS/MS解析により同定するために、まずタグ融合USP46結合タンパク質とマウス脳組織の抽出タンパク質によるプルダウンアッセイの条件検討を行った。その結果、Hisタグ融合USP46結合タンパク質とマウス脳組織タンパク質のみのサンプルとの間にバンド強度に差が確認でき、Hisタグ融合USP46に結合するタンパク質の存在が確認できた。 2.Usp46変異マウスの行動特性の把握 Usp46ノックアウト(KO)マウスの概日リズムについて検討したところ、KOマウスでは概日周期がコントロールマウスに比べ長いこと、明暗サイクルへの再同調に時間がかかること、光パルスによる位相変位量が少ないこと、食事サイクルに行動リズムが同調することが明らかになった。これらの結果から、Usp46は概日リズムの制御に関与していることが示された。 3.ミスアライメントによる行動変容 体内の様々な生理リズムの位相が正常に保たれていないミスアライメント状態(慢性的ジェットラグ、非24時間周期への曝露)におけるUsp46のうつ様や不安様行動への影響を調べるために、まず、コントロールマウスを用いて検討した。その結果、慢性的ジェットラグにおいて、不安様行動が増加する傾向が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
USP46の基質同定に関して、当初の計画通りには進行せず、戦略を変更して研究を続けている。すなわち、LC-MS/MS解析では、試料の精製に問題があり候補分子の特定には至っていない。そこで、プルダウンアッセイによりUSP46と結合するタンパク質を精製してLC-MS/MS解析を行う試みを行っている。
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今後の研究の推進方策 |
Usp46変異マウスの活動リズムが食事刺激に対して同調する知見を得たことは大きな成果である。概日時計は、主時計として脳内に存在する視交差上核と肝臓や肺などに存在する末梢時計に大きく分けられるが、食事刺激は末梢時計に影響するものの視交差上核のリズムに影響することはない。しかし、Usp46変異マウスは食事刺激で視交差上核のリズムが同調する極めて特徴的な性質を示す。したがって、今後の研究は、Usp46変異マウスを活用した食事同調の機構の解明を推進する予定である。この研究により、交代勤務や海外旅行による概日システムのミスアライメント(時差ぼけ状態)や明暗サイクルに同調できない視覚障害者、あるいは非24時間睡眠覚醒症候群などの概日リズム睡眠障害に対して、食事などの非光同調因子を概日リズムの有効な同調因子として利用できる新しい技術の開発につながる可能性がある。また、得られた知見に基づいて、概日リズム障害の治療薬の開発にも貢献できると思われる。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者は、平成27年度4月より関西学院大学に移動のため、予定していたマウスの繁殖が十分に行えず実験に支障が生じたため。
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次年度使用額の使用計画 |
試薬類の消耗品費、マウス繁殖用の飼料などに充てる。
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