研究課題
基盤研究(B)
終齢期に入ると、腹部第7-9体節のVerson’s glandは他の体節とは異なり肥大化せず細胞死を起こし消失した。その細胞死はオートファジーによって引き起こされるが、幼若ホルモン(JH)により体節特異的な細胞死を抑制できた。そこで体節特異的なJH応答因子を見出すためにマイクロアレイによる解析を行い、退化するVerson’s glandで体節特異的に発現あるいは消失する候補遺伝子を得た。一方Verson’s glandの細胞にGFP遺伝子を注射したところ、発光が見られたので得られた候補遺伝子の機能を検定する方法が確立できた。Verson’s glandの蛹コミットメントは皮膚とは異なり栄養のシグナルによって誘導され、JHにより抑制されることを明らかにした。そこでJHを投与し、インスリンシグナル経路の遺伝子発現を調べた結果、PDKおよびAktの発現が阻害された。一方、絶食によりJHシグナルに関与するKr-h1の発現が強く誘導された。このことからVerson’s glandの蛹コミットメントは、インスリンシグナルとJHシグナルが転写レベルで相互作用することにより制御されていることが示唆された。Crochetは幼虫期特異的な器官で蛹変態時に退化するが、カスパーゼ活性化を伴う細胞死を起すことを見出した。5齢前の幼虫期のcrochets産生細胞の産生能は、幼虫脱皮直後にいったん低下し次の脱皮に向けて回復するが、5齢0日の産生細胞の産生能は細胞死を起こす前にも関わらず、完全には回復しなかった。また過剰齢(6齢)幼虫のcrochetsには著しい異常が見られたことから、産生細胞の蛹への準備は5齢脱皮前後に既に始まっている事がわかった。以上の事から、蛹変態への準備はかなり早く、終齢脱皮へと決定されるとすぐに始まるものと考えられた。
2: おおむね順調に進展している
Verson’s glandの蛹コミットメントのメカニズムは、予想した以上の成果が見られ始めた。それはVerson’s glandの細胞に注射によるDNAや dsRNAを直接に取り込む技術を開発したことが大きい。それにより様々な要因の過剰発現やサイレンシングが細胞レベルでコントロールできることが可能となり、コミットメント研究ばかりでなく体節特異的細胞死を引き起こす要因の検定も容易に行われるようになった。一方crochet細胞の細胞死の研究では、ホルモン制御の実験結果が一定せず遅れ気味である。
Verson’s glandのコミットメント研究では、様々な要因を細胞内で過剰発現あるいはサイレンシングすることにより、インスリンとJHとのネットワークを見出すことにより、蛹変態のメカニズムを解明する。また体節特異的細胞死を引き起こす要因の同定にも同様な直接的なアッセイ法を用いる予定である。またマイクロアレイ解析を幼虫の発育時期を変えて行い、より多くの候補遺伝子を得て行う。蛹変態に向けてcrochetの細胞死誘導の引き金となる要因を見出すことに全力を尽くす。予備実験ではJHや栄養の関与はあまり見られず、より詳細にエクダイソンとの関連で研究を進めていく。
直接注射してDNAやdsRNAを単一細胞に取り込む技術を初年度に開発することが出来た。その結果、他の方法を検討する必要がなくなったために、lipofectinや細胞培養の培地を含めて多くの高価な消耗品を購入する必要がなくなった。上述のように簡便な検定法が開発できたためより多くの候補遺伝子の機能解析が可能となり、DNAマイクロアレイを新たに行う資金に充てる予定である。新たにアレイを行うためには次年度使用額は必須のものである。
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