研究課題
カイコに存在する巨大単一細胞のVerson’s glandの蛹コミットメントにはインスリンと幼若ホルモン(JH)の両者の関与によって引き起こされることをすでに突き止めている。またインスリン受容体とAktの関与はすでに示唆してきたが、平成26年度には前年度我々が開発したVerson’s glandへの遺伝子の導入技術により、これらインスリン伝達経路関連因子とJHの受容体であるMetとJHシグナリングに重要な役割を果たすKr-h1がリンクして相互作用により蛹コミットメントが起こる糸口をつかむことが出来た。また蛹変態時に体節特異的に退化するVerson’s glandには、JHが関与しており、変態時にJH濃度が低下することにより誘導されることをすでに見出している。平成26年度にはDNA microarray解析で得られたJH応答性因子の1つが体節特異性を生み出す重要な因子であることを、上記の遺伝子導入技術により直接的に同定することが出来た。これにより解放血管系である昆虫のホルモンによる体節特異的な作用を物質のレベルで見出すことができた。腹脚に付随しているcrochet形成細胞の蛹変態に伴う細胞死の機構についてもin vivo とin vitro研究を進めてきた。しかし、エクダイソン、JHおよびインスリンによる制御は終齢脱皮間や脱皮後においてみることはできなかった。より速い発育時期に細胞死が決定されているか、他の要因が関与している可能性があると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
巨大単一細胞であるVerson’s glandを使用して、発生生物学上の重要な命題である「細胞のコミットメントはall-or-noneではなく徐々に起こる」ことをすでに明らかにし、そのコミットメントのホルモン作用についても分子のレベルで解明しつつある。また解放血管系である昆虫の、ホルモンによる体節特異性を引き起こす因子の1つを同定することが出来た。
昨年度の結果を踏まえて、関連遺伝子の過剰発現やそれらのdsRNAの注入により機能解析し、蛹コミットメントに及ぼすインスリンとJHのネットワークを完成させる予定である。すでに単一細胞のコミットメントは、定説であるall-or-noneで起こるのではなく徐々に起こるということをすでに明らかにしており、このメカニズムを分子レベルで確立し両者を合わせて論文作成する予定である。体節特異性を生み出す要因は昨年度1因子同定することが出来たが、さらに多くの因子が関与していることが考えられる。すでに様々な実験条件下においた幼虫から得たRNAの次世代シークエンス解析を行い、今回多くの候補因子を得ているので、これら因子のdsRNAによるサイレンシングや過剰発現により因子を複数特定して、JH反応性なども調べることにより解放血管系である昆虫の体節特異性を生み出すメカニズムを解明する予定である。
Verson’s glandの体節特異的な細胞死を誘導する因子(群)を見出すために、予備的に4つの異なる発育時期からのRNAを抽出して、次世代RNAシークエンスを行い比較検討した。その結果幸運にも多くの候補遺伝子を見出し、そのうちの1つの遺伝子の機能解析を、予定したシークエンスを終わらせる前に進めて明らかに重要な因子であることを突き止めた。機能解析の条件検討などに時間を費やし、予定していた異なる発育時期のRNA シークエンスが完全に終了できなかった。
予定していたすべての発育時期のRNA シークエンスを行い、さらに多くの体節特異的な細胞死誘導因子(群)の候補を見出すのに使用したい。それらの機能解析を行うことによりホルモン誘導性でもある解放血管系の体節特異性を導くネットワークを完成する計画である。
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