研究課題/領域番号 |
25292198
|
研究機関 | 浜松医科大学 |
研究代表者 |
高久 康春 浜松医科大学, 医学部, 助教 (60378700)
|
研究分担者 |
針山 孝彦 浜松医科大学, 医学部, 教授 (30165039)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 電子顕微鏡 / FE-SEM / 高真空 / 生きたまま / 形態学 |
研究実績の概要 |
生物試料は、構成成分の70~80%が水であるため、高真空環境(10-5-10-7Pa)を必要とする電子顕微鏡で観察するには、事前の化学固定や脱水が不可欠と考えられてきた。しかしこれらの処理は、試料の変形やアーティファクトを生じさせる為、従来法による観察・解析による結果は、生体本来の構造を正確に捉えてはいなかった。我々は既に、全く新しいアプローチで生物試料の高真空・高分解能観察に成功している。昆虫の体表面物質(および疑似物質)を試料に塗布し、電子線およびプラズマ照射により体表全面に高気密NanoSuitを形成することにより、高真空中で試料を生きたまま維持・観察することが可能となった(Takaku et al, 2013; Suzuki et al, 2013; Ohta et al, 2013;特願2011-197685;特願2012-044383;特願2012-197927等)。 昨年度は、昆虫体表を厚さの異なるNanoSuitで覆うことにより、生命維持とイメージングとの関連を調べた。最適濃度の保護溶液から作成された「最適な厚さのNanoSuit」は、高真空下で生命維持が可能であるのみならず、イメージングを全く損なわない(電子線に対して”透明”である)ことが明らかになった(Takaku et al, 2015)。また、生きている試料は、生きている間は、電気的チャージアップを示さないことも示唆された(Takaku et al, 2015)。さらにこの技術を展開し(1)癌細胞が組織へ浸潤していく過程(2)ウイルスが宿主へエントリーしていくプロセス(エンドサイトーシス)を解析した(論文作成中)。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成26年度中には、上述したように、FE-SEMにより生物を生きたまま高分解能観察できる理由(メカニズム)を解明し論文を発表した(Takaku et al, 2015)。また、当初の計画通り、癌細胞と組織・ウイルスと宿主等の連関を継時的に解析することに成功し、現在論文作成中である。さらに、これら試料の観察から謎の微少仮足様構造を発見し、現在解析を継続中である。
|
今後の研究の推進方策 |
我々は既に、NanoSuit法の展開によって、五界説で分類される原核生物、原生生物、菌類、植物、動物を電界放射型走査型電子顕微鏡(FE-SEM)内で観察可能にし、さらに切り出した組織・単離した細胞などをFE-SEMで観察することに成功し、これまでとは全く異なる画像を得ている。本年度は、これらに関するデータ構築を完全なものとし論文にまとめる作業を行う。特に(1)微少仮足様構造に注目した再生・発生過程(2)生きたままの植物(3)生きたままの病理細菌、等の電子顕微鏡レベルでの超微細構造を全く新しい視点から追跡する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
昨年度は、NanoSuit用の新しい保護溶液の開発に主眼をおき研究を行った。特許性がある事案であるため、技術補佐員等に仕事をお願いすることが出来ず、コアメンバーのみで作成に当たった。保護溶液SSEの開発・改良・展開に成功したことにより、本年度は技術補佐員を数名雇用し、溶液の性能チェック等、研究の大きな推進をはかる。
|
次年度使用額の使用計画 |
あらたに技術補佐員4名を雇用する(予算400万円)。また必要に応じてNanoSuit保護溶液をさらに改良する。特に、疎水性・親水性など対象試料の表面特性によって保護溶液が十分に機能するかが、高真空下における生命維持の大きな鍵となる。さらなる改良により、万能なNanoSuit保護溶液の作成に取り組む。
|