研究課題/領域番号 |
25293002
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
高須 清誠 京都大学, 薬学研究科(研究院), 教授 (10302168)
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研究分担者 |
服部 明 京都大学, 薬学研究科(研究院), 准教授 (50300893)
山岡 庸介 京都大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (60624723)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 有機合成 / 四員環炭化水素 / 生物活性天然物 / 機能性分子 / 反応開発 |
研究実績の概要 |
1.シクロブタン環を含む生物活性天然物の合成:抗腫瘍活性を示すセスキテルペン・パエスレリンAの合成を検討した。26年度までに確立した独自の3成分連続反応を利用した三環性骨格の構築を基盤として、カルベンによるC-H挿入反応によるC1導入法を確立しパエスレリンAの全合成を達成した。これにより、10年以上不明であったパエスレリンAの真の構造を訂正した。 2.2-アシル-2-ビニルビアリールを原料とするシクロブタン形成反応の反応機構解析:原料と生成物の立体化学の収支を実験科学的に検証し、連続的求核付加で反応が進行していることを明らかにした。また、本反応を高温で行うと異なる位置で逆[2+2]環化付加が起こることを見出し、間接的なメタセシスができることを明らかにした。 3.四員環炭化水素のC-C切断を基軸とする反応開発と応用:シクロブテンの熱的4π電子環状反応が同旋的に進行するが、縮環シクロブテンの場合はtrans二重結合を含むため中員環生成物が得られない。しかし、その中員環にHeck反応やDiels-Alder反応などを連続的に進行させるという工夫を施し、一般には合成しにくい8員環および9員環の合成反応を見出した。その過程で、中員環中間体の面性不斉を利用し不斉記憶型反応ができることを明らかにした。 一方で縮環シクロブタンの酸性条件でのシクロプロパンへの転位反応を鍵とし、フェナンスロインドリジジンアルカロイド・チロホリンなどの不斉全合成を達成した。 4.pH応答性機能性分子の創製:H25年度までに明らかにしたシクロブタンからの多環芳香族炭化水素の合成を展開し、酸性条件に付すと強い蛍光を示す物質の合成に成功した。今後、さらなる精緻な分子設計をして精密機能性分子の創製に向かう予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
生物活性天然物の合成研究では、H27年度時点での完成を見込んでいたがすでに数種類の化合物の合成を終了させ、H27年度はさらに数種の化合物を新たな合成標的に定めることとなった。また、他研究者の研究であるがパエスレリンA類似の化合物が興味深い生物活性を示すことを2014年に報告した。彼らとの共同研究を想定し、化学生物学的な研究に発展することを目指すこととなった。 また、C-C結合切断に関する研究において、当初あまり期待していなかったシクロブテンの電子環状反応で想定以上の興味深い結果に遭遇した。本成果は、一般的に合成が困難な中員環化合物の新合成法に利用できるだけでなく、分子不斉の新たな側面を明らかにする可能性が期待できる。27年度は中員環の不斉合成に挑戦することとした。
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今後の研究の推進方策 |
1.小員環を含む生物活性天然物の合成:パエスレリンAより酸化度の高いメレオリドおよびその類縁体は、レタスの成長促進および抑制に濃度依存で効果があることが静岡大の河岸らの研究で明らかになった。柔軟な合成法を確立し、メレオリドの全合成および類縁体の合成を目指す。また、抗腫瘍活性を示すジテルペン・プロビデンシンの不斉合成も検討を行う。 これまでは四員環化合物を主題としてきたが、シクロプロパン環を含む新規な天然物の合成も検討する。 2.ヘリセンを含む機能性材料の合成:2-アシル-2-ビニルビアリールの形式的[2+2]環化付加反応を基盤に、ヘリセン類の合成を実施する。我々の開発した反応では任意の芳香環上に任意の置換基を導入することが可能であり、新規構造をもつヘリセン型多環芳香族炭化水素を合成できるはずである。とくに分子不斉を利用した新有機材料の創製を指向し、分子設計を行う。 3.四員環炭化水素のC-C切断を基軸とする反応開発と応用:縮環シクロブテンの熱的4π電子環状反応を含む連続反応の理解を進め、新たな反応と組合わせることで様々な分子の合成を検討する。また、不斉記憶型反応を利用し、中員環の不斉合成に挑戦するとともに、生理活性物質の合成も検討する 4.pH応答性機能性分子の創製:H26年度までの研究を継続し、機能性蛍光物質の合成を検討する。これまでは酸刺激によって応答する分子であったが、それにかわる応答性の検討も実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
26年度中に購入予定の試薬が試薬会社で生産延期になったこともあり、実験の予定を変更した。そのため、購入計画が若干変更となった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度に消耗品費(合成原料)として使用する予定である。
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