研究課題
基盤研究(B)
申請者はこれまでに,リン酸基を特異的に捕捉する亜鉛錯体(フォスタグ)にアクリルアミド基を導入した誘導体を分子デバイスとして利用することで,リン酸親和性電気泳動法(フォスタグ SDS-PAGE)を開発している。本研究では,タンパク質の分離分析において活用される2次元電気泳動法を発展させ,独自に開発したフォスタグSDS-PAGEの原理を加えることで,電気泳動法における新しい3次元軸の構築を行う。これにより,深耕拡大する生体内の「リン酸化ワールドとシグナルネットワーク」を短時間(1回の電気泳動)で一網打尽に浮き彫りにするための新たな分離イメージング技術を創出する。当該年度では,リン酸化修飾と他の翻訳後修飾の同時検出を行うための3次元電気泳動解析の検証を試みた。以下に具体的な成果を記述する。Wntシグナルの構成分子であるβ-カテニンは,プロテアソーム阻害剤存在下のHEK293細胞において,ポリユビキチン化され,1次元目の等電点電気泳動法と2次元目のSDS-PAGEで分子量の増加を検出できた。3次元目のフォスタグ SDS-PAGEを用いて展開すると,β-カテニンにはリン化酸状態の異なる少なくとも9つのリン酸化フォームが混在しており,そのうちの2つがユビキチン修飾に必須なリン酸化フォームであることが判明した。3次元展開で観察されたその2つのリン酸化フォームから分子量シフトを示す複数のスポットが派生しており,これらがユビキチン化タンパク質であることは,抗ユビキチン抗体によるウェスタン解析によって確認した。
2: おおむね順調に進展している
当該年度においては,リン酸化修飾と他の翻訳後修飾の同時検出を視野に入れた3次元解析データを蓄積することを目標にした。IEFとSDS-PAGEを組み合わせた2次元電気泳動法よりβ-カテニンを含むスポットを同定し,それらのスポットを含むゲルを短冊状に切り出した後,フォスタグSDS-PAGEにより3次元展開することに成功した。これにより,タンパク質のリン酸化とそれに関わるユビキンチン化修飾,また,その反応プロセスを浮き彫りにすることができた。すなわち,β-カテニンにはリン化酸状態の異なる少なくとも9つのリン酸化フォームが混在しており,そのうちの2つがユビキチン化修飾に必須なリン酸化フォームであることが判明し,リン酸化がユビキチン化の分子スイッチとして機能していることを証明することができた。このように,分子全体の翻訳後修飾の動態の同時解析が可能になることを証明できたことで,本技術の有用性を立証し,今後の展開に期待できる。
高次複合体プロテオームの質的・量的ダイナミクスの解明を視野に入れた3次元モニタリング法を確立する。リン酸化が関わる複合体形成など,複数のタンパク質分子のダイナミクスを同一ゲル内で解析が可能になることを証明することで,本技術の有用性を立証する。具体的には,ブルーネイティブ電気泳動(生体内の複合体を未変性で分離)とSDS-PAGE(分子量)を2次元展開の要素とし,3次元目にフォスタグSDS-PAGEを導入することも有用である。このように起点となる2次元平面ゲルを適宜応用することで,3次元電気泳動を高次複合体プロテオームのダイナミクス解析法として確立し,その有用性を立証する。同時に,分離・分解能向上のためのアクリルアミド結合型誘導体の新規合成を行い(例えば,アクリルアミド分子とフォスタ間にロングスペーサーを導入した誘導体など),改善されれば新たな分子デバイスとして顕在化させる。
消耗品費や謝金に予定していた予算が削減でき,次年度使用額が生じた。2年目はさらに研究が展開されるので,次年度使用額1,747,637円とH26年度予算を合わせて,消耗品費や謝金に大いに活用させて頂き,研究を効率よく進める予定である。
すべて 2014 2013 その他
すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 8件) 学会発表 (19件) (うち招待講演 4件) 備考 (2件)
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