研究課題
申請者はこれまでに,リン酸基を特異的に捕捉する亜鉛錯体(フォスタグ)にアクリルアミド基を導入した誘導体を分子デバイスとして利用することで,リン酸親和性電気泳動法(フォスタグSDS-PAGE)を開発している。本研究では,タンパク質の分離分析において活用される2次元電気泳動法を発展させ,独自に開発したフォスタグSDS-PAGEの原理を加えることで,電気泳動法における新しい3次元軸の構築を行う。これにより,深耕拡大する生体内の「リン酸化ワールドとシグナルネットワーク」を短時間(1回の電気泳動)で一網打尽に浮き彫りにするための新たな分離イメージング技術を創出する。当該年度においては,高次複合体プロテオームの質的・量的ダイナミクスの解明を視野に入れた3次元モニタリング法の確立を目指した。リン酸化が関わる複合体形成など,複数のタンパク質分子のダイナミクスを同一ゲル内で解析が可能になることを証明することで,本技術の有用性を立証した。具体的には,ブルーネイティブ電気泳動(生体内の複合体を未変性で分離)とSDS-PAGE(分子量で分離)を2次元展開の要素とし,3次元展目にフォスタグSDS-PAGEを導入することでリン酸化が関わる複合体形成など,複数のタンパク質分子のダイナミクスを同一ゲル内で解析が可能となった。 さらには,細胞内において極めて発現の低いリン酸化タンパク質を検出する際に,フォスタグアガロースを用いた分離濃縮の前処理操作を行うことで,その検出感度が有意に改善されることを証明した。細胞内において極めて低発現のリン酸化タンパク質については濃縮による前処理操作の有効性を示すことができた。
2: おおむね順調に進展している
当該年度においては,当初の予定通り,高次複合体プロテオームの質的・量的ダイナミクスの解明を視野に入れた3次元モニタリング法の確立を目指した。その結果,リン酸化が関わる複合体形成など,複数のタンパク質分子のダイナミクスを同一ゲル内で解析が可能になることを証明することで,本技術の有用性を立証した。具体的には,ブルーネイティブ電気泳動(生体内の複合体を未変性で分離)とSDS-PAGE(分子量で分離)を2次元展開の要素とし,3次元展目にフォスタグSDS-PAGEを導入することでリン酸化が関わる複合体形成など,複数のタンパク質分子のダイナミクスを同一ゲル内で解析が可能となった。 さらには,細胞内において極めて発現の低いリン酸化タンパク質を検出する際に,フォスタグアガロースを用いた分離濃縮の前処理操作を行うことで,その検出感度が有意に改善されることを証明した。細胞内において極めて低発現のリン酸化タンパク質については濃縮による前処理操作の有効性を示すことができた。リン酸化タンパク質の網羅的分離濃縮を目的とした方法論はこれまでにも他にたくさん開発されているが,それらのほとんどは変性後の分離分析を行うものであり,複合体因子等の機能構造を無視するものである。フォスタグ法による濃縮法はそれらの技術を補填できるものと期待され,今後の展開にも活かされる。
・3次元蛍光ディファレンシャル解析法の確立 (この計画は前年度より持ち越されたものであり,今年度も継続して行う予定である。)3次元蛍光ディファレンシャル解析法の確立を視野に入れたリン酸化ディファレンシャルデータを蓄積する。3次元展開ゲルにおいて,生理的・病理的状態の異なるサンプルル間のリン酸化ディファレンシャル解析を行い,その検出の感度や頻度に関するデータを蓄積し,3次元蛍光ディファレンシャルイメージングの有用性を立証する。・フォスタグ立体ゲルのプロタイプとそれを利用した電気泳動法の開発 現在,申請者らは,通常の2次元平面ゲルからフォスタグを均一に固定化した平面ゲルへリン酸化タンパク質群のみを転写するためのリン酸親和性トラップゲル電気泳動転写法を開発中である。この転写法は既存のウェスタン解析用の転写装置を用い,原理としては3次元電気泳動法と類似ではあるが,フォスタグゲルが薄い平面(厚さ 2 mm以内)であるため,現時点の技術ではリン酸化状態の異なるリン酸化タンパク質フォームをそれぞれ分離するのではなく,まとめてトラップすることを目的としている。リン酸化タンパク質は拡散することなく上方から下方に垂直に電気泳動的に転写され,フォスタグゲル内にトラップされる。一方,非リン酸化タンパク質はフォスタグゲルを通過する。トラップされたリン酸化タンパク質は質量分析法によって高感度に同定等の解析が可能となる。このフォスタグゲルの厚みを既存の装置で分析できる限界までに拡大させた立体ゲルを作成し,その立体ゲル空間において蛍光標識されたタンパク質フォームの分離分析が可能な条件を見出すことで,3次元電気泳動用ゲルのプロトタイプとその手法を開発する。
旅費や謝金に予定していた予算が削減でき,次年度使用額が生じた。
最終年度はさらに研究が展開されるので,旅費や謝金に大いに活用させていただき,研究を効率よく進める予定である。
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 5件、 謝辞記載あり 5件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 1件、 招待講演 4件) 図書 (4件) 備考 (3件)
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