研究課題/領域番号 |
25293006
|
研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
斎藤 博幸 徳島大学, ヘルスバイオサイエンス研究部, 教授 (60300919)
|
研究分担者 |
笠原 二郎 徳島大学, ヘルスバイオサイエンス研究部, 准教授 (10295131)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | アポリポタンパク質 / HDL / ABCトランスポーター / コンフォメーション / コレステロール代謝 / 脂質異常症 / アミロイドーシス |
研究実績の概要 |
本研究課題では、血中や中枢神経系(脳内)でのコレステロール代謝平衡を調節しているヘリックス型アポリポタンパク質であるアポA-IとアポEによるHDL産生・代謝調節機構の物理化学的基盤を解明するとともに、HDL代謝制御システムの破綻によって引き起こされる疾患の新たな予防・治療法開発のための科学的基盤構築を目指している。 平成26年度は、アポA-Iによる血漿HDL産生・代謝制御機構に関し、前年度に開発した環境感受性蛍光プローブ標識アポA-I分子を用いて、アポA-Iの抗動脈硬化活性の指標となるHDLからの解離特性(HDL非結合アポA-Iとの交換反応)についての詳細な速度論的・熱力学的解析を行った。その結果、低HDL血症変異アポA-Iでは、この反応遷移エネルギーが高いためにHDL間交換反応が抑制されていることが明らかとなった。さらに、HDLの形成・成熟過程でのアポA-I分子のコンフォメーション変化を認識・識別する抗アポA-I抗体の設計・開発に着手し、いくつかのHDL認識抗体候補を得た。 また、脳内でのHDL形成を担うアポEアイソフォーム間での水溶液構造や動的HDL結合構造の差異を検出することを目的として、ドメイン特異的トリプトファン変異体の設計・作製やヘリックス領域特異的環境感受性蛍光プローブ標識により、アポEアイソフォームの自己会合や脂質膜結合に伴うN末及びC末ドメインの構造変化をそれぞれ独立して評価する手法を確立した。その結果、アポEアイソフォームの脂質膜への結合にはC末領域を介した会合体から単量体への解離過程が律速であること、また、アポE3とE4アイソフォーム間で自己会合性が異なることよって脂質膜へのC末領域の結合速度が異なることを見出し、アイソフォームによる病態発症機序にアミノ酸置換のあるN末領域ではなくC末領域が深く関与する可能性を示唆した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度は、アポA-Iによる血漿HDL産生・代謝調節機構に関し、前年度に開発したアポA-I分子の環境感受性蛍光プローブ標識法を、HDL非結合-結合型構造間の動的平衡コンフォメーション測定に適用した。すなわち、アポA-Iの抗動脈硬化活性の指標となるHDLからの解離特性(HDL非結合アポA-Iとの交換反応)について詳細な速度論的・熱力学的解析を行い、交換反応の遷移エネルギーを観測することに成功した(Biochemistry 54, 1123, 2015)。本手法により、低HDL血症変異アポA-Iでは、この反応遷移エネルギーが高いためにHDL間交換反応が抑制されていることが明らかとなった。さらに、HDLの形成・成熟過程でのアポA-I分子のコンフォメーション変化を認識・識別する抗アポA-I抗体の候補をいくつか得るなど、アポA-I高次構造に基づいたHDL機能の解明に向けた基盤整備が大きく進展した。 また申請者は、アポEアイソフォームの構造情報に基づいた部位特異的システイン残基導入とチオール基反応性/環境感受性蛍光プローブ標識により、アポE分子内のN末及びC末ドメイン各領域の構造特異性や脂質膜結合挙動を独立して評価可能な蛍光分光学的手法を世界で初めて確立している(Biochemistry 51, 5580, 2012; Biochim. Biophys. Acta 1841, 1716, 2014)。本手法を用いて、これまで推定されていたアポEの経時的な二段階脂質膜結合挙動や脂質結合構造の多様性を直接実験的に証明することに初めて成功した。アポEは水溶液中で自己会合によって多量体を形成する傾向が強く、未だNMRやX線結晶構造解析等による詳細構造解明は成功していない。したがって、本研究で確立した領域特異的蛍光分光解析法は、低解像度ながらHDL形成に伴うアポEアイソフォームの高次構造変化をリアルタイムで追跡するには非常に有効であると考えられる。 以上のように、当初の研究計画に対しておおむね順調に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
HDLのコレステロール除去作用には、結合しているアポA-I分子の高次構造(コンフォメーション)が密接に関連していると考えられており、この点で、今年度から作成に着手したアポA-Iコンフォメーション認識抗体は、よりコレステロール除去活性の高いHDLすなわち“善玉HDL”の測定法開発につながる可能性を秘めている。これは、従来の単にHDLコレステロールの“量”を測定する方法ではなく、そのコレステロール除去活性などの機能すなわち“質”を評価するという点で、臨床的意義も非常に大きい。また、アポA-Iコンフォメーション認識抗体は、アミロイドーシス変異アポA-Iの構造転移を伴うアミロイド線維形成を高感度で検出できる可能性もあり、疾患誘発性異常アポA-Iの高感度検出・診断法への応用展開が期待される。そこで平成27年度は、このアポA-Iコンフォメーション認識抗体の開発を積極的に展開する。 一方、アポEアイソフォーム特異的脳内HDL産生・コレステロール輸送機能について、当初計画していた細胞表面糖鎖による制御機構の解明はあまり進展がみられていない。平成27年度は、ヘパラン硫酸やコンドロイチン硫酸を欠損したCHO細胞株や糖鎖結合部位を改変したアポEアイソフォーム変異体などを用いて、アポEによる細胞からのHDLコレステロール産生作用や細胞への接着・取り込み過程などの比較評価を行い、アポEアイソフォームによるHDL産生・コレステロール輸送作用に対するアポE-細胞表面糖鎖相互作用の役割を明らかにする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
ほぼ予算通りの使用であったが、年度末に当たり若干の差額が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度交付額と合算して使用予定。
|