研究実績の概要 |
平成27年度は、HDLの形成・成熟過程でのアポA-I分子のコンフォメーション変化を認識・識別する抗アポA-I抗体の開発を目指し、アポA-I分子内のN末側44-65残基、84-126残基並びに中央部122-143残基領域をエピトープとする抗アポA-I抗体を作成した。これらのうち、N末側44-65残基をエピトープとする#20-7抗体が、アポA-IのHDL結合構造によって結合性が大きく変化することを見出し、アポA-Iのコンフォメーション変化を認識している可能性が示唆された。HDLのコレステロール除去作用には、結合しているアポA-I分子のコンフォメーションが密接に関連していると考えられており、アポA-Iコンフォメーション認識抗体の開発はよりコレステロール除去活性を反映した新たなHDL測定法につながる可能性がある。 一方、ヒト変異アポA-Iによるアミロイドーシス発症の物理化学的機序解明においては、アポA-Iの組織沈着領域であるN末1-83残基フラグメントのアミロイド線維化が、脂質膜環境におけるヘリックス構造形成によって阻害されること、水溶液中での線維化を促進する変異であるG26Rはヘリックス構造の不安定化を通じて脂質膜環境での線維化も促進すること、を新たに見出した(JBC 290, 20947-20959, 2015)。さらに、ポリフェノールの一種であるEGCGがアポA-Iのアミロイド線維形成を強く阻害すること(Amyloid 23, 17-25, 2016)や、細胞表面ヘパラン硫酸の多硫酸化ドメインがアポA-Iアミロイド線維の細胞毒性発現に関与していること(JBC 290, 24210-24221, 2015)、なども明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
アポA-IによるHDL産生機構並びに遺伝的変異によるアミロイド線維形成メカニズムについて、これまで順調に解明が進んでいる(J. Struct. Biol. 185, 116, 2014; FEBS Lett. 588,389, 2014; Biochemistry 54, 1123, 2015; JBC 290, 20947, 2015)。また、得られた研究成果を基盤とした新規HDL検出法の開発(J. Lipid Res. 55, 2423, 2014)やアミロイド線維形成阻害剤の探索(Amyloid 23, 17, 2016)など、創薬展開に関しても順調に進展しているといえる。 平成28年度は、アポリポタンパク質によるHDL産生やアミロイド線維形成における生理的因子として、細胞表面糖鎖による制御機構の解明を進める。申請者は既に、細胞表面ヘパラン硫酸の多硫酸化ドメインがアポA-Iアミロイド線維の細胞毒性発現に関与していること(JBC 290, 24210, 2015)や、ヘパリンが変異アポA-Iフラグメントの線維伸長を促進すること(未発表)、などを見出している。今後はさらに、ヘパラン硫酸やコンドロイチン硫酸を欠損したCHO細胞株や糖鎖結合部位を改変した変異アポリポタンパク質などを用いて、細胞からのHDLコレステロール産生作用や遺伝的変異による機能異常・アミロイド線維化過程などの比較評価を行い、アポリポタンパク質によるHDL産生作用やアミロイド線維形成・細胞毒性作用に対する細胞表面糖鎖相互作用の役割を明らかにする。また、脳内アポEが関与する神経変性疾患における糖鎖の役割についても解明を進める。
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