研究概要 |
【目的】リゾホスファチジルセリン(LysoPS)はin vitroでマスト細胞の脱顆粒促進活性を始め、細胞遊走、神経突起伸長、T細胞の増殖抑制など様々な作用を示すリゾリン脂質の一種である。我々は最近新規LysoPS受容体としてP2Y10, GPR174を同定し、これらが免疫系の組織、細胞に限局して発現し、リンパ球活性化時にその発現が顕著に上昇することを明らかにしている。そこで本研究では、免疫系活性化時におけるLysoPSの作用に着目し、炎症疾患モデルであるConcanavalin A(Con A)誘発性肝炎モデルマウスを用いて解析を行った。【方法】マウスにCon A 20mg/kgを尾静脈投与し、肝炎モデルマウスを作製した。肝炎症状の評価は血中ALT活性を指標とした。マウス血漿、組織中リゾリン脂質の検出はLC-ESI-MS/MSを用いた。この際ODSカラムによる逆相分離法、質量分析部にはトリプル四重極質量分析計を用いた。サンプル調製では、血漿はメタノールにより除タンパク処理し、組織は灌流後摘出しメタノール中で破砕した。内部標準として 17:0 リゾホスファチジン酸(LysoPA)を添加し、遠心した後その上清を解析サンプルとした。LysoPSの薬理作用はLysoPS 2.5mg/kgをCon Aと同時に単回静脈投与して評価した。【結果・考察】 肝炎時の血中LysoPS量は血中ALT活性に相関して増加し、特に18:0, 20:4, 22:6といった分子種が顕著に増加した。血中での増加は他のリゾリン脂質ではLysoPGを除いて見られなかった。また、肝ネクローシス部分でもLysoPS量の増加が見られた。さらに、肝炎モデルへのLysoPS投与により、コントロール群に比べ肝炎症状が有意に抑制された。以上のことから、LysoPSは炎症抑制作用を持つ新規脂質メディエーターであり、炎症部位で産生され、炎症の収束に寄与することが示唆された。今後はこのLysoPSの産生機構やその意義の解明を行いたいと考えている。
|