研究課題
基盤研究(B)
最近我々は、コンドロイチン硫酸(CS)鎖を欠くES細胞(GlcAT-I欠損マウスより樹立)は、野生型マウス由来のES細胞と比べ、未分化能が高く(LIF:Leukemia Inhibitory Factorを欠く培地でも分化しない)、細胞間の接着異常により、胚様体形成が出来ないことを見出した。この表現型は、E-カドへリンを欠くES細胞と類似していた。一方、我々は、細胞接着因子であるN-カドヘリンが特定のCS鎖と結合し、骨芽細胞の分化を制御する可能性を指摘してきた。そこで、E-カドヘリンと様々なCS鎖との結合をBIAcoreを用いて解析したところ、CS-AおよびCS-Eと呼ばれるCS鎖と結合が見られた。実際、CS鎖を欠くES細胞にCS-AもしくはCS-Eを加えると、胚葉体の形成能の回復および分化が誘導されたが、その回復はE-カドヘリンの機能中和抗体を加えると阻害された。さらに、CS鎖を欠くES細胞にCS-AもしくはCS-Eを加え、E-カドヘリンあるいはCS鎖による制御が報告されている分化シグナルであるRho/Rock、MAPKやSMADシグナル経路の変化を解析したところ、活性化RhoAのレベルが野生型と同程度にまで回復していた。従って、ES細胞で発現しているE-カドヘリンとCS鎖の結合が、胚葉体形成や分化誘導を制御していることが判明した。また、CS鎖の合成はキシロースがコアタンパク質に転移されることにより開始され、四糖からなる結合領域が合成された後、二糖単位が繰り返される領域の合成が開始される。我々が以前同定したFAM20Bによる一過的なキシロースのリン酸化は、結合領域の合成を促進するが、結合領域四糖の合成完了とともに速やかに脱リン酸化され、二糖単位が繰り返される領域の合成が開始される。本年度は、この脱リン酸化酵素の同定に成功した。この脱リン酸化酵素は、上述のGlcAT-Iと相互作用することにより、GlcAの転移による結合領域四糖の合成完了に伴う速やかな脱リン酸化を可能にしている事が明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、ES細胞で発現しているE-カドヘリンと特定の構造をもつCS鎖の結合が、胚葉体形成や分化誘導に必須であることを明らかにし、CS鎖によるES細胞の分化制御がE-カドヘリンを介した細胞内シグナル伝達経路の活性化により引き起こされることを見出すことができたから。また、長年の懸案事項であった、結合領域の脱リン酸化酵素の同定にも成功したため。
骨粗鬆症は、骨吸収の亢進あるいは骨形成の低下によって生じる疾患であるが、最近我々は前骨芽細胞あるいは骨髄細胞に特定の構造をもつCS鎖を添加したり、そのCS鎖を内在的に増やすと、骨芽細胞分化が亢進することを見いだした。今後は、骨粗鬆症の発症においてもCS鎖の構造や量が重要な役割を果たしていることを明らかにし、ES細胞の場合と同様、骨芽細胞分化に関わる特定の構造をもつCS鎖とその受容体の同定に努め、骨粗鬆症などの疾患におけるCS鎖の重要性を明らかにしていきたい。
当該助成金が生じた理由は、初年度後半に研究補助員の雇用を計画していたが、その採用が都合により次年度にずれたため。研究補助員の採用は既に決定しているので、次年度の使用計画は概ね順調に遂行できるものと考えている。
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