研究課題
生体膜に於いて脂質はランダムに配列しているのではなく、脂質二重層の内層と外層の脂質組成は異なり、内層のみ、外層のみをとっても特定の脂質がドメインを形成している。しかし生体膜における脂質の詳細な分布状態はほとんど明らかになっていない。私たちは特定の脂質を認識するタンパク質やペプチドをスクリーニングし、それらをプローブとして生体膜の脂質の分布、動態、機能を明らかにすることを目的としている。本年度は二つのスフィンゴミエリン結合タンパク質が異なった脂質の分布状態を認識していることを明らかにし、この二つのタンパク質を用いてスフィンゴミエリン代謝異常の細胞における形質膜脂質ドメインの異常について明らかにした。またショウジョウバエ等の昆虫やトリパノソーマのような寄生虫における主要スフィンゴ脂質、エタノールアミンホスホセラミドに特異的に結合するタンパク質を発見し、このタンパク質を用いてトリパノソーマ感染によって引き起こされるアフリカ眠り病の簡易診断ができることを示した。本年度はまたこれまでに確立した脂質プローブと免疫電子顕微鏡法を組み合わせることによりナノメートルレベルでの脂質の非対称性を明らかにすることにも成功した。その結果赤血球では主要脂質は表側だけ、または裏側だけに局在すること、一方核を持った線維芽細胞や好中球では形質膜の内層にスフィンゴミエリンのドメインが存在することが明らかになった。さらにジアシルグリセロールのFRET検出プローブにオルガネラターゲッティングシグナルを結合させることで、膜の表側と裏側のジアシルグリセロールの動態を同時に検出することにも成功した。これまでに私たちは高速原子間力顕微鏡を用いて膜孔形成毒素の会合過程をナノメートルレベルでビデオレートで測定することに成功しているが、本年度はさらに毒素の結合による膜の再編成の過程の可視化に成功した。
2: おおむね順調に進展している
本研究では以下の3つの項目について明らかにすることを目的としている:1.細胞膜中にスフィンゴ脂質とコレステロールの複合体は存在するのか?存在するとしたらその複合体はどのような時間的、空間的分布を示すのか?2. 何が脂質のクラスター化を引き起こすのか?3. スフィンゴ脂質は形質膜脂質二重層の外層に局在しているが、スフィンゴ脂質の裏側の脂質組成についてはよくわかっていない。脂質ラフトの裏側はどうなっているのだろうか?本年度はこのうち2.3.について研究を進めることができた。2.についてはクラスター状態と分散状態のスフィンゴミエリンを認識するタンパク質を解析することでスフィンゴミエリンクラスター形成のメカニズムの一端を明らかにすることができた。また、3についてはフリーズフラクチャー免疫電子顕微鏡法を用い、脂質の非対称性を詳細に調べる方法を確立した。1.については現在進行中だが、その過程で予期しなかったエタノールアミンホスホセラミドに結合するタンパク質の発見があった。今後1.について早急に論文をまとめ、研究の完成を目指す。
残された時間で「細胞膜中にスフィンゴ脂質とコレステロールの複合体は存在するのか?存在するとしたらその複合体はどのような時間的、空間的分布を示すのか?」について研究を進める。すでにスフィンゴミエリンとコレステロールの複合体に特異的に結合するプローブは完成しており、複合体の時間的、空間的分布も明らかになりつつある。
平成27年11月、新規プローブの大量調製と精製の過程で、当初の予測に反し、新規脂質プローブは大腸菌で大量調製する際、凝集しやすく、精製が困難であることが明らかになった。培養条件の改変およびタンパク質の構造改変により、この問題を解決できることが明らかになり、それらを踏まえた新しい条件下でプローブの調製を再度行った上で、応用実験に供することになった。
物品費(血清、プラスチック器具等)、人件費(実験補助)、旅費(国際学会での発表)、その他(投稿料等)として使用する。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 謝辞記載あり 5件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 3件、 招待講演 3件)
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