研究課題
TRPC3欠損マウスにおいて、心臓の圧負荷により誘発される心肥大は抑制されないものの、間質の線維化がほぼ完全に抑制されることを見出した。そこで、ラット新生児心筋細胞に機械的伸展刺激を与え、炎症メディエーターである活性酸素(Reactive Oxygen Species; ROS)生成を調べたところ、伸展誘発性のROS生成がTRPC3阻害により完全に抑制されることが分かった。このメカニズムとして、TRPC3がチャネル活性非依存的にROS生成酵素(NADPHオキシダーゼ)の発現をタンパクレベルで安定化させることを明らかにした。さらに、TRPC3を介した局所的なCa2+流入がNADPHオキシダーゼの活性化に必須となることも明らかにした。Ca2+流入からROS生成へのシグナル変換が、TRPC3が特異的に線維化を誘導する機序となる可能性が示された。一方、閉塞性動脈硬化症(PAD)の末梢循環障害における骨格筋TRPC3/6チャネルの役割解析を進めている。今年度は、TRPC3/6チャネルに対する選択的阻害化合物を新たに同定した。この化合物は多くのTRPCチャネル阻害薬に共通して見られるstore-operated Ca2+ channel (SOC)阻害作用は全く持たなかった。大腿動脈結紮1週間後からTRPC3/6阻害化合物を投与したところ、下肢虚血3週間以降の末梢血流量が有意に回復した。TRPC3/6阻害化合物は、末梢血管平滑筋細胞の成熟だけでなく、骨格筋細胞の再生・修復も促進し、運動能力を上げることで末梢循環を著しく改善することがわかった。TRPC6欠損マウスにおいても著しい末梢循環改善効果が観察されたことから、TRPC3/6阻害化合物はTRPC6を阻害することで抗PAD治療効果を示す可能性が示された。
2: おおむね順調に進展している
基礎データはほぼ順調に出そろってきたので、平成27年度は論文発表に専念する。
心血管の病態形成にTRPC3/6チャネルが関わっているという知見は着実に蓄積してきたが、その一方でTRPC3/6欠損マウスで特に際立った表現型が見られず、生理的役割の解析が難航している。今後は病態メカニズム解析で明らかにしてきたTRPCチャネルの機能が運動負荷や交感神経刺激などの生理的刺激下でも働きうるかどうかに焦点を絞って解析する。
平成26年度に下肢虚血後の腓腹筋で発現変動する遺伝子群のGene Chip解析を予定していたが、標的シグナル分子が偶然にも同定でき、実施実験内容を変更する必要が生じたため。
自由運動が末梢循環改善のプライミング効果をもつことがわかってきた。そこで、平成26年度に使用しなかった経費を用いて、自由運動を行った際の横紋筋組織(心筋・腓腹筋)における遺伝子発現変動をマイクロアレイ解析により網羅的に調べ、下肢虚血後の腓腹筋におけるTRPC6チャネル発現上昇を抑制するメカニズムにつながる遺伝子を抽出する。
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Clinical Calcium
巻: 25(1) ページ: 47-58
Cardiovas Res
巻: 104 ページ: 183-193