1)ムライマイシン・カプラザマイシン類の単純化誘導体であるラクタム縮環型イソキサゾリジン誘導体のラクタム環サイズの変更や立体異性体を各種合成し、抗菌活性を評価した。その結果、MRSAやVRE等の薬剤耐性菌に対して抗菌活性を有する化合物を見出した。病原性クラミジアに代表される偏性細胞内寄生体は、ペプチドグリカンを持たないがリピドIIを産生するというパラドックスを持つ。ムライマイシン誘導体でクラミジアを処理したところ、細胞分裂の停止・細胞の巨大化が観察された。この結果から、リピドIないしはIIは単にペプチドグリカンの構成成分であるばかりではなく、細胞分裂のシグナル分子であることが示唆された。MraY阻害剤が新たな機序で抗菌活性を示すことを明らかにした。 2)2-位に不斉中心を有する環状イミンを用いたジアステレオ選択的なUgi 多成分反応を用いて、プラスバシンA3の誘導体であるジデオキシ体の全合成を達成した。本合成法は効率的で多彩な誘導体合成に柔軟に対応可能な収束型合成である。さらにその抗菌活性を測定したところ、活性が消失することがわかった。CDスペクトルから、ジデオキシ体は、プラスバシンA3とは全く異なる高次構造をとることがわかり、プラスバシンA3の2つの水酸基は、環状ペプチドのコンフォメーション維持に重要な役割を果たしていることがわかった。 3)前年度までに合成したキナルドペプチン誘導体の2本鎖DNAに対する結合能と抗菌活性を評価し、構造活性相関を検討した。その結果、4つ含まれるL-ピペコリン酸残基を一つでもL-プロリンに変換すると活性が大幅に消失する事がわかり、4つのL-ピペコリン酸残基は、環状ペプチドのコンフォメーション維持に重要な役割を果たしていることが示唆された。一方で、クロモフォア部の変換はある程度許容で、天然物の活性を上回る活性を有する誘導体を見出す事ができた。
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