研究課題
基盤研究(B)
超高齢社会のなかで認知症の克服は大きな課題である。アルツハイマー病は進行性の記憶学習障害を臨床的特徴とする神経変性疾患であり、その発症機序は不明である。近年、アミロイドβ(Aβ)の脳内増加が孤発性アルツハイマー病の原因であるとの考えに基づき、抗体などを用いてAβの量を減らす第三相大規模臨床試験がいくつか行われているが、どの薬も認知機能の改善には至ってきない。脳内でのAβの増加はアルツハイマー病の発症前から観察されることから、Aβがシナプスの機能、特に可塑的変化に作用する可能性がある。一方、海馬グルタミン酸作動性神経のシナプス小胞には亜鉛(Zn2+として作用)が存在し、記憶と関係することが知られている。シナプスZn2+シグナルの不足のみならず過多により、記憶獲得ならびに獲得した記憶が障害されることを明らかにした。「神経細胞内の過剰なZn2+シグナルが記憶を障害する」との新規知見に基づき、本研究ではアルツハイマー病の原因物質と考えられているAβの物体認識記憶に対する作用を海馬亜鉛シグナリングに着目して検討した。若齢(6-9週齢)ラットを用い、in vivo条件下で記憶の分子基盤の一つとして考えられている長期増強(long-term potentiation: LTP)を海馬歯状回領域で測定した。ヒト由来Aβ1-42を歯状回に投与したところ、一過性に歯状回LTPは障害され、同時に物体認識記憶も一過性に障害された。これらの障害は亜鉛キレータの同時投与により回避された。Aβ1-42はZn2+と結合して可溶性オリゴマーとなり、短期記憶を一過性に障害することを明らかにした。本研究成果はアルツハイマー病発症前の短期記憶障害のメカニズム解析に寄与するのみならず、その予防戦略に貢献することが大いに期待される。
2: おおむね順調に進展している
現在、研究実績概要に記載した研究成果を投稿論文としてまとめており、ハイインパクトな学術雑誌への投稿を進めている。それゆえに、おおむね順調に進展していると判断される。
アミロイドβ(Aβ)による短期記憶障害のメカニズムをシナプスZn2+シグナリングの異常から解析するとともに、獲得した記憶に対するAβの作用(記憶の消失)についても追究する。当初立てた研究実施計画を推進する。
当初研究計画と比べて消耗品が少なくて研究が進行できた。消耗品として使用。
すべて 2014 2013
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 4件) 図書 (2件)
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