研究実績の概要 |
アルツハイマー病において嗅内野は最も早く障害される部位であり, 軽度認知機能障害(MCI, mild cognitive impairment)においても萎縮が観察される部位である。嗅内野からは貫通線維を介して海馬歯状回に記憶情報が入力されるが, 貫通線維-歯状回顆粒細胞シナプスは, アルツハイマー病発症前におけるアミロイドβ(Aβ)の標的部位であると考えられる。しかし, なぜこのシナプスがAβ毒性に脆弱であるのか, その原因は明らかにされていない。正常なラット脳の歯状回にヒトAβ1-42を投与すると, 細胞外Zn2+と結合して顆粒細胞内に取り込まれ, 内側貫通線維-歯状回顆粒細胞シナプスでの長期増強(LTP)が障害され, 物体認識が一過性に障害されることをこれまでに明らかにした。また, これらの障害は細胞外Zn2+キレーターあるいは細胞内Zn2+キレーターで回避できた。正常な脳細胞外Aβ1-42濃度は脳脊髄液濃度などから約200-1000 pMレベルと推定されている。マイクロダイアリシスプローブ付き記録電極を用いたLTP実験から, 5 nMのAβ1-42で記録部位を灌流すると, 脳細胞外Zn2+の存在により速やかにZn-Aβ1-42オリゴマーが形成され, 内側貫通線維-歯状回顆粒細胞シナプスでのLTPが障害されることが明らかとなった。一方, 5 nMのAβ1-40を同様に灌流してもLTPは障害されず, Zn-Aβ1-42オリゴマーが顆粒細胞に取り込まれ, 物体認識が障害されることが示された。
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