研究分担者 |
中島 大介 国立研究開発法人国立環境研究所, 環境リスク研究センター, 主任研究員 (10281411)
増村 健一 国立医薬品食品衛生研究所, 変異遺伝部, 室長 (40291116)
野原 恵子 国立研究開発法人国立環境研究所, 環境健康研究センター, 研究センター長 (50160271)
松本 理 国立研究開発法人国立環境研究所, 環境リスク研究センター, 研究調整主幹 (60132867)
柳澤 利枝 国立研究開発法人国立環境研究所, 環境健康研究センター, 主任研究員 (70391167)
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研究実績の概要 |
東京都内で1980年および2010年に採取された大気浮遊粒子の抽出物(以下Tar)を試料として、0.3 mgおよび0.6 mgを突然変異検出用遺伝子導入マウス(gpt deltaマウス)に単回気管内投与し、肺での突然変異頻度(Mutation frequency)を調べた。2010年試料では、突然変異頻度は対照群に比べて0.3 mgで有意に1.5倍増加し、0.6 mgでも2.1倍増加した。G>T Mutation frequencyは、対照群0.096 x 10-5に比べて、0.6 mgで0.30 x 10-5へと有意に増加した。同様の増加は1980年の試料でも観察された。ちなみに、0.6 mgのタール量は1980年で46 m3、2010年では124 m3の大気に含まれる量に相当し、前者はマウスの約3年間の換気量に相当する。 突然変異スペクトルの解析の結果、gpt遺伝子の#64, #110, #115塩基がG→A transitionのMutation Hotspotであった。これらは、1,6-ジニトロピレンのHotspot (但し、Spontaneous Mutationも発生し易い塩基)であったが。ベンゾ[a]ピレン(BaP)のHotspotとは異なった。さらに特徴ある突然変異として、#406 (GAA)にG→T transversionのHotspotが誘導された。このようなG to T transversionの増加は、1,2-ベンゾナフトキノンのような肺中で酸化ストレスを誘導する化学物質の投与によっても観察されており、肺へのTar曝露(特に2010年試料)による突然変異頻度の増加への酸化ストレス誘導の関与が示唆された。 また、発がん性が高いsemi-volatileな多環芳香族炭化水素benzo[c]fluorene (BcFE), cyclopenta[c,d]pyrene(CPcdP), and benzo[j]fluoranthene (BjF) の大気中濃度を全国で測定すると、BcFEは0.16、0.23 ng/m3(夏季、冬季)、CPcdP 0.13、0.29 ng/m3(BjF 0.13、0.26 ng/m3と、BaPの0.15、0.29 ng/m3と比べて遜色のない濃度であった。ユニットリスクから換算すると、BcFEの発がんリスクは夏季6.8倍、冬季5.1倍BaPに比べて高かった。
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