研究課題/領域番号 |
25293037
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
横井 毅 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (70135226)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | アシルグルクロナイド / グルクロン酸転移酵素 / UGT1A3 / UGT2B7 / ジクロフェナク / 医薬品副作用 |
研究概要 |
近年、薬物または反応性代謝物による直接のストレスの他に、免疫細胞活性化に伴う炎症反応を介した肝障害が注目されている。アシルグルクロニド(AG)は比較的反応性が高いことから細胞毒性に対する関与が示唆されているが、その毒性を直接証明した報告はない。本研究ではAGによる細胞毒性について炎症性因子を指標として評価検討した。最初に、AGによる炎症性因子の発現誘導についてヒト末梢血単球細胞(PBMC)を用いて評価し、ジクロフェナクアシルグルクロニド(DCF-AG)、プロベネシドアシルグルクロニド(Pro-AG)およびトルメチンアシルグルクロニド(Tol-AG)において炎症性因子の発現が誘導されることを見出した。また、DCF-AGが炎症性因子の発現を強く誘導することから、そのメカニズム解明のためにMAPK経路を解析した結果、DCF-AGによる炎症性因子の発現誘導にはp38およびc-Jun N-terminal kinase(JNK)経路が関与することを示した。次に、PBMC中の各細胞に与える影響についてフローサイトメトリーにより検討した。PBMC中のCD3およびCD19陽性細胞に対するAGの影響は認められなかったが、CD14陽性細胞においてのみDCF-AG、Pro-AGおよびTol-AGにより細胞生存率の低下が認められた。MAPK経路の解析の結果、DCF-AG処置によるCD14陽性細胞に対する細胞傷害にはp38経路が関与していた。本研究では、AGが炎症性因子の発現を誘導すること、PBMC中のCD14陽性細胞特異的に細胞傷害性を示すこと、それらにp38経路が関与することを初めて明らかにし、AGが薬物誘導性肝傷害の原因の一因になる可能性を示した。本研究で明らかにしたAGの細胞毒性およびメカニズムの情報は、臨床における薬物誘導性肝障害の予測に役立ち、医薬品開発に資することが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究において、アシルグルクロニド(AG)は、細胞障害性を示さないこと、さらに遺伝毒性を示さないことを証明して論文として発表した(Drug Metab. Dispos., 39:54-60, 2011)。しかし、免疫/炎症が関わる毒性の有無についての結論が得られていなかった。今年度の研究において、ジクロフェナクアシルグルクロニド(DCF-AG)が特に炎症性因子の発現を誘導することを、ヒト末梢血単球細胞(PBMC)を用いて評価し、CD14陽性細胞特異的に細胞傷害性を示すこと、それらにp38経路が関与することを初めて明らかにし、AGが薬物誘導性肝傷害の原因の一因になる可能性を示した。さらに、この内容を論文としてまとめ、Drug Metab. Dispos., 42:1-8, 2014に論文発表をすることができた。この段階までは、当初の予定の成果であると考えている。本研究で明らかにしたAGの細胞毒性およびメカニズムの情報は、臨床における薬物誘導性肝障害の予測に役立ち、医薬品開発に資することが期待される。しかし、当初予定していたin vivoで実験動物レベルでの検討を開始することができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究成果を基にさらに発展させ、アシルグルクロニド(AG)が、なぜヒト単球特異的に障害性を示すかを解明し、さらに、その影響の評価を行う。さらに、他のAGの構造を示す多くの薬および代謝物について、同様な細胞障害性を示すかをあきらかにする。また、同時にin vitroのcell-based screeningへの適用を考え、感受性の高いPBMCの選択と最適な分析条件の確立を行う予定である。また、一方、cell-based 試験は、あくまでもin vivoの毒性に対しての参考データに過ぎないことを鑑みて、in vivoでのAGの毒性への関与を定量的に評価出来る系を考案する。In vivoの系の構築は、困難を伴うと思うが、新薬の代謝物の構造にカルボン酸構造を有することを考慮すると、この研究の結論は速やかに明確にすべきであると考える。
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次年度の研究費の使用計画 |
2013年度において、in vitroでの研究の進捗が順調であり、論文作成、発表まで行う事ができた。しかし、当初に予定していたin vivoでの実験動物を用いた検討を本格的に開始することができなかったという誤算が生じたために、未使用額が生じる結果となった。 初年度の2013年は、in vitroの細胞を用いた研究によって、成果を挙げることができた。2014年度は、細胞を用いたさらなる研究と、さらに、マウスを用いたin vivo毒性評価試験の構築も併せて行う予定であり、大きく展開する予定であり、研究費に期待している。
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