研究課題/領域番号 |
25293040
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
齋藤 秀之 熊本大学, 医学部附属病院, 教授 (40225727)
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研究分担者 |
西 一彦 熊本大学, 医学部附属病院, 准教授 (30264287)
城野 博史 熊本大学, 医学部附属病院, 准教授 (40515483)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 薬物動態 / 代謝スクリーニング系 / 腎臓病 / 尿毒症物質 / インドキシル硫酸 / 硫酸転移酵素 |
研究実績の概要 |
本年度は、 平成25年度に得られた研究成果を踏まえ、虚血性急性腎障害ラットにおける硫酸抱合型尿毒症物質合成阻害薬の腎保護効果の検証を実施した。in vitroスクリーニングにより選別した尿毒症物質合成阻害薬について、虚血再灌流急性腎障害ラットを用いた投与実験を行い、腎機能保護効果について比較精査した。評価の測定対象として、血清中インドキシル硫酸濃度、肝・腎組織中尿毒症物質蓄積量、腎機能マーカー、腎障害バイオマーカー、血清電解質濃度並びに腎組織中の過酸化脂質量を主に調べた。 慢性腎臓病モデルラット及び急性腎障害ラットを用いた検証実験を行った結果、重度虚血性腎障害の進展過程にインドキシル硫酸の蓄積が密接に関与しており、硫酸転移酵素阻害薬によりインドキシル硫酸産生・蓄積を抑制することで腎保護効果が得られることを突き止めた。さらに、ラット及びヒト肝抽出画分において極めて強いインドキシル硫酸産生阻害作用を示したmeclofenamateを用いて動物投与実験を行った結果、血清中インドキシル硫酸の蓄積の著明な低減と腎保護作用が観察され、本薬物が周辺薬物探索のためのリード薬物として有用であることが判明した。慢性腎臓病ラットを用いた検討により、脂質異常症治療薬プロブコールの経口投与によりインドキシル硫酸蓄積の有意な抑制とともに、血清酸化ストレスマーカー並びに腎組織の病態生理的変化が軽減されることが観察された。硫酸転移酵素阻害によりインドキシル硫酸産生を抑制することで、腎障害の病態軽減効果が得られることを確認した。 ヒト肝組織抽出画分を用いたインドキシル硫酸産生阻害薬物のスクリーニング系を確立し、種々阻害薬物のスクリーニングを行った。結果、ラットとヒト肝組織においてインドキシル硫酸産生阻害薬物の感受性が類似していることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
急性腎障害モデルラットを用いたインドキシル硫酸産生阻害薬物の比較投与試験を実施した結果、ラット及びヒト肝S9画分で強い阻害作用を示したmeclofenamateにより血清中インドキシル硫酸の蓄積が著明に低減すること、それに伴い腎機能保護作用を示すことが判明した。虚血等の刺激によって腎皮質中の プロスタグランジンE2 (PGE2) 濃度が上昇することに伴い、近位尿細管側底膜側に局在する有機アニオントランスポーター OAT1/3 の発現が低下することが報告されている。本実験において、虚血再灌流処理により腎皮質中 PGE2 濃度が有意に上昇し、OAT1/3 の発現は有意に減少すること、一方、meclofenamate投与により、PGE2 濃度の上昇が抑制され、OAT1/3 の発現が回復することを見出した。本研究により、インドキシル硫酸の肝産生・蓄積阻害に基づいた急性腎障害の進展予防法の可能性を支持する基盤情報が得られた。これらの研究知見は、Txicol. Sci. (2014)並びにDrug Des. Devel. Ther.(2014)に論文公表した。 さらに、慢性腎臓病モデルラットを用いたインドキシル硫酸産生阻害薬物の比較投与試験を実施し、インドキシル硫酸蓄積抑制効果並びに腎保護効果について予備的データが得られている。ポリフェノール系化合物の一つであるレスベラトロールが、慢性腎臓病および急性腎障害モデル動物においてインドキシル硫酸蓄積抑制作用を示すこと、それに伴い腎機能保護効果を示すデータが得られている。 ヒト遺伝子導入強制発現細胞系による硫酸抱合型尿毒症物質合成モデル系を作成する計画予定であったが、腎疾患モデル動物による検証実験が増大したことより、次年度以降の研究計画として取り組む予定である。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までの研究成果を踏まえ、薬剤性急性腎障害ラットにおける硫酸抱合型尿毒症物質合成阻害薬の腎保護効果の検証を行う。腎障害性・尿細管毒性の強い薬剤としてシスプラチン(白金系抗癌薬)、バンコマイシン(配糖体抗生物質)、シクロスポリン(免疫抑制薬)を用い、常法(通常1-5日間の腹腔内投与もしくは経口内投与)に従って急性腎障害ラットを作成し、硫酸抱合型尿毒症物質合成阻害薬の腎障害進展阻止効果について比較検討を実施する。 ヒト遺伝子導入強制発現細胞系による硫酸抱合型尿毒症物質合成モデル系を作成する。培養細胞系として肝由来HepG2、腎由来HEK293、Cos-7細胞を用い、CYP2E1、CYP2A6及び硫酸転移酵素SULT1A1の各cDNA(市販品を入手予定)を、リポフェクタミン等の遺伝子強制発現キットを用いて導入し、ヒト型尿毒症物質産生モデル細胞系を構築する。 熊本大学医学部附属病院・血液浄化療法部(西准教授)との連携・協力により、透析患者、慢性腎臓病患者並びに外科的手術に付随する虚血性急性腎障害患者の試料(血液、尿)を用い、インドキシル硫酸及びp-クレジル硫酸の定量分析を実施する。心血管系イベントの血中予測バイオマーカーとしてhsCRP(高感度C-reactive Protein)、ADMA(Asymmetric Dimethylarginine、内因性NOS(一酸化窒素合成酵素)阻害物質)及びBNP(Brain Natriuretic Peptide、心筋ストレスマーカー)を測定し、腎疾患患者における血清中インドキシル硫酸蓄積と種々合併症との関連について精査する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度において、ヒト遺伝子導入強制発現細胞系による硫酸抱合型尿毒症物質合成モデル系を作成する計画予定であったが、腎疾患モデル動物による検証実験が増大したことより、次年度以降の研究計画として取り組む予定である。また、腎障害モデル動物の腎及び肝組織の病理検査を実施する予定であり、尿毒症物質産生阻害薬投与による腎組織(糸球体、尿細管、間質)障害度変化の判定・評価を実施するとともに、阻害薬の投与に付随する組織学的変化について一部未実施の解析項目があるため、次年度以降の取り組み・計画として実施を予定している。
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次年度使用額の使用計画 |
以下に示す実験に用いる消耗品費として有効に使用することを計画する。 ヒト遺伝子導入強制発現細胞系による硫酸抱合型尿毒症物質合成モデル系を作成する。培養細胞系として肝由来HepG2、腎由来HEK293を用い、CYP2E1/2A6及び硫酸転移酵素SULT1A1の各cDNAを遺伝子強制発現キットを用いて導入し、ヒト型尿毒症物質産生細胞系を構築する。モデル細胞に前駆物質インドールを種々濃度で添加し、硫酸抱合体への変換効率や親和性・代謝速度を定量解析する。尿毒症物質合成阻害薬物について探索・評価を行うとともに、尿毒症物質合成阻害能を示す薬物の細胞障害性について、乳酸脱水素酵素の細胞外漏出、生存率、形態学的変化等に関する検討を行う。腎障害動物の腎・肝組織の病理検査を実施し、尿毒症物質産生阻害薬投与による腎組織(糸球体、尿細管、間質)障害度変化の判定・評価を実施するとともに、阻害薬の投与に付随する組織学的変化について解析・精査する。
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