研究課題
昨年度に確立した分離・解析条件に基づき、患者から採取した多発性骨髄腫(multiple myeloma:MM)細胞と健常人由来の正常形質細胞を対象として、質量顕微鏡解析を行った。フローサイトメトリー法によって、1.31~5.77% のMM細胞と0.03~0.24%の正常形質細胞を採取し、それぞれ一細胞レベルで質量顕微鏡解析を行った。多段階質量分析まで行った結果、MM細胞では、正常形質細胞に比べ、フォスファチジルコリン(16:0/20:4)の量が有意に少ないことが明らかとなった。本解析結果から、一細胞レベルでの質量顕微鏡解析は、微小細胞集団における脂質代謝特性の解析に有用であると考えられた。また、上記のような一細胞質量顕微鏡解析の実績をもとに、深さ方向の解析を可能とする二次イオン質量分析法による一細胞イメージング解析も行った。その結果、MM細胞では正常形質細胞に比べ、パルミチン酸量が減少していることが判明した。さらに、in vitroにおいて、MM細胞へパルミチン酸を投与したところ、著しいアポトーシスが誘導された。しかし、ヒト末梢血由来単核細胞には同様の処理で細胞死の誘導は認められなかった。本結果より、パルミチン酸はMM細胞特異的な新規治療薬として有用である可能性が示された(Nagata et al, Leuk Res, in press)。
1: 当初の計画以上に進展している
造血器腫瘍の一細胞質量顕微鏡解析に関しては、昨年度から予想以上の進展をみせている。今年度は、MM患者由来腫瘍細胞と健常者由来形質細胞において発現の異なる分子を、多段階質量分析まで行うことで同定することに成功した。本検討に関しては、現在、論文投稿準備段階であり、申請当初の目標を上回っている。一方、一細胞質量顕微鏡解析法の確立後に実施予定であった単一細胞の二次イオン質量分析は、解析結果をもとにした機能解析まで行うことができ、論文発表にいたることができた。したがって、計画を大きく上回る進展であった。3ヵ年をかけて進める予定である健常人における血液細胞サブセット解析については、昨年度から計画以上に進んでいたこともあり、今年度はMMの病態解析に注力した。本年度は、学術成果という点を加味すると、当初の計画を上回る進展を得ることができたと言える。
MMにおける脂質代謝異常に関しては、臨床病理学的因子との比較も含め、検討を進める。申請時の計画に従い、引き続き血液細胞サブセットの質量顕微鏡解析に取り組む。また、確立した一細胞質量顕微鏡法の技法のうち本研究で新たに得られた技術・知見は、がん患者において不良な予後と関連することの知られる循環腫瘍細胞解析にも応用していく。
本年度終了時点において、少額のものを購入することよりも、次年度でやや高額の質量顕微鏡装置消耗品や試薬の購入費に含めて使用したほうが有効であると判断したため。
次年度は、多発性骨髄腫における脂質代謝異常、血液細胞サブセット、循環腫瘍細胞に関して検討を進める。請求した研究費は、計画通り、主に細胞検出・単離用抗体、質量分析用試薬、質量顕微鏡装置消耗器具、二次イオン質量分析委託測定などに使用する予定である。その中に、本年度に生じた次年度使用研究費も含める。
すべて 2015 2014 その他
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 謝辞記載あり 6件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 2件) 備考 (1件) 産業財産権 (1件)
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