研究課題
本研究の目的は、脂質メディエーターであるスフィンゴシン-1-リン酸(S1P)が血管ホメオスタシス、さらには動脈硬化症、血栓症などの血管病の発症・進展を制御する機構について、S1PトランスポーターであるSpns2に着目し解明することである。我々はこれまでに、Spns2は主に内皮細胞に発現し、S1Pトランスポーターとして機能していること、さらに内皮細胞からSpns2を介して産生されたS1Pが一次リンパ組織から血管内へのリンパ球の移出に必須であることを報告してきた。今回、我々は、内皮細胞からSpns2を介して産生されたS1Pの血管系、リンパ管系における機能について解析を行った。その結果、全身性Spns2欠損マウスおよび内皮細胞特異的Spns2欠損マウスのリンパ管では、内皮細胞の細胞間接着形成異常が観察された。そこで、内皮細胞間接着形成におけるS1Pの機能を理解するため、コンフルエントの培養内皮細胞をS1Pで刺激したとこと、内皮特異的な細胞間接着分子Vascular endothelial(VE)カドヘリンが細胞間接着部位に集積し、内皮細胞のバリア機能が亢進した。我々はこれまでに、低分子量G蛋白質のひとつRap1がアクチン細胞骨格系を再編することでVEカドヘリン接着を亢進し、内皮細胞バリアを増強することを報告している。そこで、Rap1がS1Pの効果に関与するか検討したところ、S1P刺激によってRap1の活性化が誘導され、細胞間接着部位に沿ってアクチン繊維が形成された。以上の結果から、Spns2を介して内皮細胞から産生されたS1Pは、オートクリンあるいはパラクリン因子として作用し、主にリンパ管構造の維持に寄与している可能性が示唆された。また、その分子メカニズムとして、S1PはRap1を介してアクチン細胞骨格の再編を惹起し、内皮細胞間接着を増強することが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
平成26年度は、主に血管およびリンパ管におけるS1Pの機能について解析を行い、上述したように、リンパ管構造の維持におけるS1Pの重要性を明らかにした。また、昨年度の研究成果として報告した、胚発生におけるSpns2-S1Pシステムの新たな役割についての研究成果をDevelopmental Cell誌(Fukui et al. 2014)に報告することができた。以上の点から、本研究は概ね順調に進展していると考える。
昨年度の実績報告書で述べたように、これまでSpns2とApoEの2重遺伝子欠損マウスやコンジェニック系統のSpns2遺伝子欠損マウスが胎生致死になるなど想定していなかった結果が得られている。そのため、動脈硬化症などの病態におけるSpns2-S1Pシステムの役割についての解析が遅れており、平成27年度はこの点を中心に解析を進めていく。また、自己免疫疾患のひとつ多発性硬化症の発症におけるSpns2-S1Pシグナルの役割を解明するため、多発性硬化症の動物モデルである実験的アレルギー性脳脊髄炎の系を用いた解析についても継続して行っていく。
平成26年度は、概ね当初予定していた研究費を使用したが、平成25年度にも次年度使用額があったため、その分が平成26年度の次年度使用額として残った。
「今後の研究の推進方策等」の項で述べたように、平成27年度は動脈硬化症や多発性硬化症などの病態におけるSpns2-S1Pシステムの役割について中心に研究を遂行するため、予定より多くのマウスが必要となる。従って、これら実験動物の購入及び飼育費に充てる。
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すべて 雑誌論文 (9件) (うち査読あり 9件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件) 図書 (2件)
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