研究課題/領域番号 |
25293056
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
本多 真 公益財団法人東京都医学総合研究所, 精神行動医学研究分野, プロジェクトリーダー (50370979)
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研究分担者 |
児玉 亨 公益財団法人東京都医学総合研究所, 認知症・高次脳機能研究分野, 副参事研究員 (20195746)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 脳神経疾患 / 脂質代謝 / 睡眠 |
研究概要 |
強度な眠気を呈するナルコレプシーには脂肪酸代謝異常が存在し、L-カルニチン補充で脂肪酸代謝を賦活すると、睡眠日誌に記載される日中居眠り時間の有意な短縮が臨床研究で確認された。本研究では脂肪酸代謝賦活が眠気の改善をもたらす機序を、基礎検討と臨床研究を組合せて解明することを目的とする。 本年度はまず多数例の臨床血液検体を用いた横断的なCPT1機能指標の解析を行い、ナルコレプシー群および関連過眠症群でCPT1機能が低下していることを確認した。さらにL-カルニチン補充臨床研究を見直し、有効例の3割で自覚的な夜間睡眠が改善することを見出し、特に重度の夜間睡眠の持続障害をもつ例では、CPT1機能が悪いことを見出した。 そこで、L-カルニチンの眠気改善効果の主な作用点は夜間睡眠の改善にあるとの仮説をたて、野生型およびナルコレプシーモデルマウスであるオレキシンアタキシン3マウスを用いた基礎研究を開始した。8週間のL-カルニチン経口投与後のマウス視床下部を用いてmicroarrayを行った所、明期(マウスの休息期)特異的な遺伝子発現の変化が見いだされた。これについて定量的RT-PCRで確認実験を進めている。また本年度はfree moving mouseでの持続脳波測定の実験系を確立し、マウスの睡眠脳波の変化についてpilot studyを行った。L-カルニチン急性投与が、休息期の睡眠改善効果をもたらす可能性が示唆された。 平行して、8週間のL-カルニチン服用の前後での睡眠脳波の変化を検討するpilot臨床研究を、3例のナルコレプシー症例を用いて開始した。1例の解析結果では夜間睡眠の著明改善が示されており、少なくともL-カルニチンが有効な症例が存在することが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
L-カルニチン経口投与が特に昼夜の変化によって脳内遺伝子変化をどのように変化させるか十分な検討がなかった。昨年度の研究によって、ナルコレプシーモデルマウスでは休息期特異的な睡眠覚醒の遺伝子の発現変化があること、そしてそれがL-カルニチン投与で改善するという、想定外の結果がえられた。また睡眠脳波検討が行える体制を整え、マウスを用いた基礎研究とヒトを対象とした臨床研究を平行して進める体制ができ、次年度以降のサンプル数、症例数を増やした本研究を行える体制の整備が、順調に進行している。
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今後の研究の推進方策 |
マウスを用いた基礎研究については、昨年の研究を発展させることで、L-カルニチンの奏功機序の解明をすすめる。Microarrayで得られた様々なpathwayの変化について、geNorm法をとりいれた正確な定量的RT-PCR法を導入して、様々な候補遺伝子の発現変化の確認をすすめる。さらに遺伝子発現だけでなく実際の代謝産物をメタボローム解析により定量して解析を進める。樹立されたマウス脳波測定系を用いてL-カルニチン経口投与マウスと対照マウス(野生型とナルコレプシーモデルマウスのそれぞれの系統について)の睡眠状態を評価し、pilot studyで見いだされた睡眠改善効果についての検証を行う。 臨床研究については、pilot studyで行った入院での睡眠脳波検査の結果を十分に解析した上で、簡易脳波計および活動量計を用いて、在宅での睡眠状態の変化を検証する形で、特に夜間睡眠に問題がある過眠症症例(ナルコレプシーだけでなく関連過眠症を対象とする)について、pilot studyの結果の検証をする研究を行う。症例数としては20例以上を目標とする。
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次年度の研究費の使用計画 |
動物脳波解析および臨床研究での入院検査について、年度内に数を増やした検討を開始する予定であったが、動物実験システムの諸調整、臨床研究をスタートさせる前の研究倫理審査での承認手続きの遅れ、入院検査施設および被験者との日程調整などpilot studyの遂行に予定よりやや時間がかかったことが影響し、本研究にはいるのがH26年度予算での執行となったため。 多数例のマウスでの検討および臨床研究の円滑な進行のために、研究助手の雇用を行う。 動物基礎研究については、メタボローム解析を含めた検証をすすめる予定であり、臨床研究での睡眠状態把握―脳波解析受託に多くの費用が必要と考えられる。
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