研究課題
基盤研究(B)
心不全では、細胞内のCa2+貯蔵部位である心筋小胞体へのCa2+輸送能が著しく低下し、細胞質Ca2+濃度が上昇し、機能不全を起こす。心筋小胞体膜蛋白質ホスホランバンは、Ca2+ポンプATPase(SERCA)による心筋小胞体Ca2+輸送を抑制的に調節している。本研究の目的は、ホスホランバンに結合してSERCAへの抑制作用を解除して強心作用を発揮する薬物を見出し、in vitro、 in vivoさらに心不全モデルでの作用を確認することである。本研究では、ホスホランバンに結合するアプタマーの心不全治療薬としての開発を進めると共に、ホスホランバン及びアプタマーとの複合体の結晶構造解析から薬物デザインを行い、新たな急性及びうっ血性心不全に有効な心不全治療薬の開発を行う。ホスホランバン・アプタマーの心不全治療薬としての開発では、アプタマーの心筋内への導入が必須となる。そのため心筋特異的な膜透過性アプタマーの開発を行った。アデニンをS化した修飾RNAを用いたSELEXにより心筋細胞へ導入可能な膜透過性アプタマーを得た。種々の培養細胞への透過性を比較した結果、成熟した心筋細胞へ特異的に透過することがわかった。さらに、ホスホランバン・アプタマーと結合したアプタマーは、心筋細胞の収縮力の増強と弛緩の促進をもたらし、ホスホランバン・アプタマーが心筋細胞内へ導入されていることが示された。ホスホランバン及びアプタマーとの複合体の結晶構造解析については、種々の条件での結晶作成のスクリーニングを進めた。その結果、ホスホランバン細胞質ドメイン及び燐酸化ホスホランバン細胞質ドメインの微少結晶様構造を得た。X線回折から蛋白質結晶であることが明らかとなった。さらなる超微細構造解析のため、得られた結晶化条件を最適化して行く予定である。
2: おおむね順調に進展している
心筋小胞体Ca2+輸送調節蛋白質ホスホランバンに結合してSERCAへの抑制作用を解除して強心作用を発揮する薬物の開発に関して、心筋特異的に薬物を細胞内へ導入する膜透過性アプタマーの開発に成功した。心臓へのみに導入されるのかに関しては更なる検討が必要であるが、これまでに心筋特異的な薬物導入システムは、一部のウイルス・ベクター以外に報告は無く、大きな成果といえる。ホスホランバン細胞質ドメインの結晶作成についても非リン酸化及び燐酸化状態の結晶作成条件の手掛かりが得られた。これら両者の超微細構造の比較により、ホスホランバンの心筋小胞体Ca2+輸送調節のメカニズムが明らかとなるのみならず薬物デザインも可能となる。
膜透過性アプタマーを利用したホスホランバン・アプタマーに関しては、動物への全身投与により強心作用が現れるかをin vivoで検討する。さらに、心不全モデル動物を用いて、アプタマー投与後の急性効果並びに長期投与による心不全の改善効果を確認する。ホスホランバンの結晶構造解析からの薬物デザインに関しては、非リン酸化及び燐酸化状態のホスホランバン細胞質ドメインの超微細構造解析のため、これまでに得られた結晶化条件をさらに最適化して行く。
一部消耗品の使用計画に変更を生じたため。次年度の消耗品の使用計画に組み込む。
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