LOX-1結合分子群による病的血管機能誘導メカニズムの解明

2013 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 25293063
• 研究種目: 基盤研究(B)
• 研究機関: 独立行政法人国立循環器病研究センター
• 研究代表者: 沢村 達也 独立行政法人国立循環器病研究センター, 研究所, 部長 (30243033)
• 研究期間 (年度): 2013-04-01 – 2016-03-31
• キーワード: 循環器・高血圧

研究概要

申請者らが同定した（酸化）変性LDL受容体LOX-1は、内皮機能障害や動脈硬化のみならず心筋梗塞、血管再狭窄、炎症といった様々な病態を悪化させる分子であることが明らかとなっている。そこで、脂質代謝にとらわれず、LOX-1分子の機能解析を行った結果、C-reactive protein、アンジオテンシン受容体AT1、血液凝固因子といった様々な分子との相互作用が明らかとなってきた。
これに基づき本研究では、(1) 凝固因子-LOX-1結合の血液凝固や炎症における意義、(2) LOX-1-AT1結合のシグナル伝達や血管機能調節における意義、さらに(3) LOX-1結合分子群のクロストークの病態生理学的意義の解析を行っている。
(1) LOX-1への凝固因子の結合様式を解析するとともに、この結合により、血症に凝固因子が供給され、血液凝固が促進することを確認した。すなわち、凝固因子とLOX-1の結合は、理屈上は凝固因子の活性を抑制する方向で働く可能性もあったが、実際には凝固反応を促進する形で相互作用することがわかった。さらに血漿への添加ではなく、LOX-1およびLOX-1と結合する凝固因子、そして、その下流にある凝固反応に必要な分子群だけを添加した再構成系で、凝固系におけるトロンビンの活性化までの反応を促進することができることが明らかとなった。
(2) in vitroの実験で、細胞膜上で分子が極めて近接して存在することを検出するin situ PLA法により、LOX-1とAT1が近接して存在すること、LOX-1の対照として、ホモロジーの最も高い分子であるDectin-1では、それが起こらないことがわかった。さらに、LOX-1とDectin-1のキメラ分子を作製し、LOX-1の細胞膜以下の部分がAT-1との複合体形成に重要であることを明らかにした。

現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

ほぼ予定通り、3つに分けたテーマのうち最初に進める2つが進行し、その結果を踏まえて行う3つ目のテーマを26年度以降に進める準備もできた。1つ目の凝固系に関する解析については、in vitroの主要なデータは取得できたので、今後、in vitroの実験については詳細を詰めるとともに、in vivoでの解析へとつなげていく。2つめのAT1との相互作用についても、in vitroのコアになるデータは取得できたので、今後、もう少し重要なデータを取得しつつ、3つ目のクロストークのための解析の下地を固めていく。

今後の研究の推進方策

(1) 血液凝固因子-LOX-1結合の意義を明らかにする。　LOX-1KOマウスを利用してin vivoでの血栓・凝固反応におけるLOX-1の意義を調べる。まずは一般的な塩化鉄などによる血栓誘導モデルや、エンドトキシンによるDICモデルを用いる。また他の抗血栓との比較のために、抗血小板薬や抗凝固薬との効果の違いや相乗効果をin vivoの動物モデルで解析する。
(2) LOX-1-AT1複合体形成の意義を明らかにする。　細胞膜上では、LOX-1がアンジオテンシンII受容体のAT1と複合体形成をすることが、わかってきた。これにより、細胞内シグナル伝達を介したLOX-1の作用については、AT1と同様に機能する可能性がある。この点について、昨年度に引き続き解析を行う。in vitroの実験により、酸化LDLによるLOX-1刺激がAT1を介して、シグナルトランスダクションを引き起こし、転写因子の活性化を介して、エンドセリンや接着分子の発現を促進することを明らかにする。さらに組織レベルでのLOX-1-AT1複合体形成の意義を、酸化LDL刺激による血管の変化、例えば、血管透過性の亢進、酸化ストレスの亢進、LOX-1を介した脂質の取り込みなどの実験系で検証する。
(3) LOX-1結合分子群のクロストークを明らかにする。　LOX-1結合分子群が明らかになったことで、LOX-1の種々のリガンドが、酸化LDLによって惹起される細胞の変化と同様な変化を、新しいメカニズムを通じて引き起こす可能性がある。このような可能性について、(1)や(2)で得た知見を組み合わせて、さらに新しいメカニズムを明らかにしたい。

次年度の研究費の使用計画

第1に、研究施設の動物舎の汚染などにより、in vivoでの動物実験の進行を翌年度以降に重点的に行う必要が生じた。第2に、in vitroの研究はむしろ順調に進行したので、翌年度以降の研究の広がりが期待できる事から、予算の年度ごとの配分を翌年度以降にずらすことが、より適切と考えられたため。
マウスの再繁殖を急速に勧め、動物実験の推進を行う。また、in vitroの実験の新しい展開を重点的に行い、これまでの知見では想定されていなかった事実を明らかにすべく、ペースをあげて検討を行う。

研究成果

• [雑誌論文] Small dense low-density lipoproteins cholesterol can predict incident cardiovascular disease in an urban Japanese cohort: the Suita study (2013)
  • 著者名/発表者名: 175. Arai, H., Kokubo, Y., Watanabe, M., Sawamura, T., Ito, Y., Minagawa, A., Okamura, T. and Miyamato, Y
  • 雑誌名: Journal of atherosclerosis and thrombosis 巻: 20 ページ: 195-203
  • DOI: 10.5551/jat.14936
  • 査読あり
• [雑誌論文] Highly electronegative LDL from patients with ST-elevation myocardial infarction triggers platelet activation and aggregation. (2013)
  • 著者名/発表者名: 176. Chan, H.C., Ke, L.Y., Chu, C.S., Lee, A.S., Shen, M.Y., Cruz, M.A., Hsu, J.F., Cheng, K.H., Chan, H.C., Lu, J., Lai, W.T., Sawamura, T., Sheu, S.H., Yen, J.H. and Chen, C.H.
  • 雑誌名: Blood 巻: 122 ページ: 3632-3641
  • DOI: 10.1182/blood-2013-05-504639
• [雑誌論文] Electronegative low-density lipoprotein increases C-reactive protein expression in vascular endothelial cells through the LOX-1 receptor. (2013)
  • 著者名/発表者名: 177. Chu, C.S., Wang, Y.C., Lu, L.S., Walton, B., Yilmaz, H.R., Huang, R.Y., Sawamura, T., Dixon, R.A., Lai, W.T., Chen, C.H. and Lu, J.
  • 雑誌名: PLoS One 巻: 8 ページ: e70533
  • DOI: 10.1371/journal.pone.0070533
• [雑誌論文] Inhibition of lectin-like oxidized low-density lipoprotein-1 receptor protects against plasma-mediated vascular dysfunction associated with pre-eclampsia (2013)
  • 著者名/発表者名: 178. English, F.A., McCarthy, F.P., McSweeney, C.L., Quon, A.L., Morton, J.S., Sawamura, T., Davidge, S.T. and Kenny, L.C.
  • 雑誌名: Am J Hypertens 巻: 26 ページ: 279-286
  • DOI: 10.1093/ajh/hps035
• [雑誌論文] LOX-1 ligands containing apolipoprotein B and carotid intima-media thickness in middle-aged community-dwelling US Caucasian and Japanese men (2013)
  • 著者名/発表者名: 179. Okamura, T., Sekikawa, A., Sawamura, T., Kadowaki, T., Barinas-Mitchell, E., Mackey, R.H., Kadota, A., Evans, R.W., Edmundowicz, D., Higashiyama, A., Nakamura, Y., Abbott, R.D., Miura, K., Fujiyoshi, A., Fujita, Y., Murakami, Y., Miyamatsu, N., Kakino, A., Maegawa, H., Murata, K.
  • 雑誌名: Atherosclerosis 巻: 229 ページ: 240-245
  • DOI: 10.1016/j.atherosclerosis.2013.04.023
• [雑誌論文] Lectin-like oxidized low-density lipoprotein receptor-1 plays an important role in vascular inflammation in current smokers. (2013)
  • 著者名/発表者名: 180. Takanabe-Mori, R., Ono, K., Wada, H., Takaya, T., Ura, S., Yamakage, H., Satoh-Asahara, N., Shimatsu, A., Takahashi, Y., Fujita, M., Fujita, Y., Sawamura, T. and Hasegawa, K.
  • 雑誌名: J Atheroscler Thromb 巻: 20 ページ: 585-590
  • DOI: 10.5551/jat.16436
• [雑誌論文] Oxidized Low Density Lipoprotein (LDL) Affects Hyaluronan Synthesis in Human Aortic Smooth Muscle Cells. (2013)
  • 著者名/発表者名: 181. Viola, M., Bartolini, B., Vigetti, D., Karousou, E., Moretto, P., Deleonibus, S., Sawamura, T., Wight, T.N., Hascall, V.C., De Luca, G. and Passi, A.
  • 雑誌名: The Journal of biological chemistry 巻: 288 ページ: 29595-29603
  • DOI: 10.1074/jbc.M113.508341
• [学会発表] 活動電位依存的な小脳顆粒細胞の成熟メカニズム (2014)
  • 著者名/発表者名: 岡澤慎
  • 学会等名: 第10回宮崎サイエンスキャンプ
  • 発表場所: 宮崎
  • 年月日: 20140214-20140216
• [学会発表] Del-1は酸化LDL－受容体相互作用を阻害し、血管壁脂質沈着を抑制する Del-1 as an endogenous blocker of oxidized LDL which suppresses arterial lipid accumulation (2013)
  • 著者名/発表者名: 垣野明美、中野厚史、藤田佳子、沢村達也
  • 学会等名: 第17回日本心血管内分泌代謝学会学術総会
  • 発表場所: 大阪
  • 年月日: 20131122-20131123
• [学会発表] 異物受容体としてのLOX-1から見た新展開 (2013)
  • 著者名/発表者名: 沢村達也
  • 学会等名: 第17回日本心血管内分泌代謝学会学術集会
  • 発表場所: 大阪
  • 年月日: 20131122-20131123
• [学会発表] Identification of Endogenous Anti-Atherogenic Protein Which Blocks the Interaction between Oxidized LDL and Its Receptors (2013)
  • 著者名/発表者名: Akemi Kakino, Atsushi Nakano, Yoshiko Fujita, Tatsuya Sawamura
  • 学会等名: AHA Scientific Sessions 2013
  • 発表場所: アメリカ・ダラス
  • 年月日: 20131116-20131120
• [学会発表] 内因性蛋白質による新しい酸化LDL作用阻害機構 Inhibition of oxidized LDL action by an endogenous protein (2013)
  • 著者名/発表者名: 垣野明美、中野厚史、藤田佳子、沢村達也
  • 学会等名: 第86回日本生化学会大会
  • 発表場所: 横浜
  • 年月日: 20130911-20130913
• [学会発表] An endogenous blocker of oxidized LDL (2013)
  • 著者名/発表者名: Akemi Kakino, Atsushi Nakano, Yoshiko Fujita, Tatsuya Sawamura
  • 学会等名: 13th International Conference on Endothelin (ET-13)
  • 発表場所: 東京
  • 年月日: 20130909-20130911
• [学会発表] AT1はLOX-1を介した酸化LDLによるシグナル伝達と血管壁脂質沈着を促進する (2013)
  • 著者名/発表者名: 垣野明美、山本浩一、中野厚史、李蕾、藤田佳子、楽木宏実、沢村達也
  • 学会等名: 第49回高血圧関連疾患モデル学会学術総会
  • 発表場所: 東京
  • 年月日: 20130906-20130907
• [学会発表] LOX-1 ligands containing apolipoprotein B and catroid intima-media thickness in middle-aged community-dwelling US Caucasian and Japanese men (2013)
  • 著者名/発表者名: Tatsuya Sawamura
  • 学会等名: AACC annual meeting&clinical lab expo 2013
  • 発表場所: アメリカ・ヒューストン
  • 年月日: 20130728-20130801
• [学会発表] Regulation Of Cellular Lipid Metabolism In Atherogenesis (2013)
  • 著者名/発表者名: Akemi Kakino, Atsushi Nakano, Yoshiko Fujita, Tatsuya Sawamura
  • 学会等名: The 81st Congress of the European Atherosclerosis Society (EAS 2013)
  • 発表場所: フランス・リヨン
  • 年月日: 20130602-20130605
• [学会発表] LOX-1は血管内皮障害から動脈硬化性疾患発症を担う
  • 著者名/発表者名: 沢村達也
  • 学会等名: 第13回日本NO学会学術集会
  • 発表場所: 沖縄
  • 招待講演
• [学会発表] 酸化LDL受容体LOX-1を利用した変性LDL測定方法と動脈硬化性疾患の評価
  • 著者名/発表者名: 沢村達也
  • 学会等名: 第45回日本臨床検査自動化学会
  • 発表場所: 横浜
  • 招待講演
• [学会発表] 酸化LDL阻害分子Del-1の過剰発現は、マウス血管壁脂質沈着を抑制する
  • 著者名/発表者名: 垣野明美、中野厚史、藤田佳子、沢村達也
  • 学会等名: 第23回日本循環薬理学会
  • 発表場所: 福岡
• [産業財産権] LOX-1 阻害活性を高めた後発酵茶精製組成物 (2014)
  • 発明者名: 沢村達也、新家康弘、土井聡、來住明宜、松川泰治、
  • 権利者名: 独立行政法人 国立循環器病研究センター、ユーハ味覚糖株式会社
  • 産業財産権種類: 特許
  • 産業財産権番号: 特願 2014-001888
  • 出願年月日: 2014-01-08
• [産業財産権] 抗血液凝固剤 (2013)
  • 発明者名: 沢村達也、藤田佳子、垣野明美
  • 権利者名: 独立行政法人 国立循環器病研究センター
  • 産業財産権種類: 特許
  • 産業財産権番号: 特願 2013-273308
  • 出願年月日: 2013-12-27