1. GCN1L1が酸化ストレス防御に果たす役割の個体レベルでの検討---私どもは、昨年度までにGCN1L1LのRWD BD (RWD binding domain)特異的欠失マウス(GCN1L1 KOマウス)を作成した。RWD領域は他の生物種においてGCN2ばかりではなくDFPRP2 を介してDRG2と複合体を形成することが知られている。また、DRG2を欠失したマウスはp21の発現誘導を伴うG2/M arrestを起こすことが報告されている。そこでGCN1L1 KOマウス由来の胎児期繊維芽細胞で解析すると、DRG2のタンパク質量低下を伴うG2/M arrestを起こしていることが明らかになった。以上のことから、GCN1L1はDRG2の機能調節を介して細胞増殖を制御していることが強く示唆された。また、GCN1L1 KOマウス由来の胎児期繊維芽細胞ではIGF-1によるAKTのリン酸化が減弱していることが明らかになった。 2. GCN1L1が酸化ストレスを感知する分子機構の解析 --- ヒト一倍体細胞株HAP1の野生株およびGCN1L1欠損株を用いてATF4活性化およびNrf2活性化を解析した。ヒスチジン飢餓を模倣するhistidinol処理により野生株ではATF4の標的遺伝子であるアスパラギン合成酵素(ASNS)の発現が誘導されたが、GCN1L1欠損株では誘導されなかった。ミトコンドリアストレス誘導剤としてATPアーゼ阻害剤oligomycin およびミトコンドリア翻訳阻害剤doxycyclineで処理したところ、いずれによってもASNSの発現誘導が見られ、GCN1L1欠損株では野生株に比べoligomycinによる誘導に差はなかったがdoxycyclineによる誘導が半減した。方で親電子性物質ジエチルマレイン酸によるNrf2の活性化を野生株およびGCN1L1欠損株を用いて解析するとGCN1L1欠損株においてNrf2の活性化が著明に減弱していることが明らかになった。
|