研究課題/領域番号 |
25293072
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
石谷 太 九州大学, 生体防御医学研究所, 准教授 (40448428)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | シグナルファインチューニング / 臓器構築 / NLK |
研究概要 |
臓器の構築や維持は、WntシグナルやShhシグナル、Notchシグナルなどの細胞運命を制御するシグナル群によって制御される。非常に興味深いことに、臓器の構造や機能の複雑さに対して、臓器の構築・維持を支える細胞運命制御シグナルの種類はわずかである。しかしながら、わずかな数のシグナル群のON/OFFの制御のみで臓器の構築・維持を支えられるとは考えにくい。ON/OFF制御に加え、「シグナル群の活動の局所的で厳密な微調整(シグナルファインチューニング)」が臓器の構築・維持には必須であると考えられる。本研究では、タンパク質リン酸化酵素Nemo-like kinase(NLK)によるシグナルファインチューニングの分子基盤とその臓器構築・維持・破綻における機能を明らかにする。これにより、臓器の構築・維持を支える分子基盤の新たな一面を明らかにする。また、NLKの活性制御化合物も同定し、将来的な疾患治療・組織再生医療への貢献を目指す。 本年度は、NLKの生体内における機能を詳細に解析するために、TALEN法を用いたNLKノックアウトゼブラフィッシュの作成と、GAL4-UASシステムおよび熱ショックにより時期組織と特異的にNLKを発現するゼブラフィッシュ系統の作成を行い、ほぼ完了した。また、哺乳動物細胞とゼブラフィッシュを用いたNLKの機能解析を行い、NLKが後脳においてShhシグナルを抑制して、後脳運動神経前駆細胞および小脳顆粒細胞前駆細胞の増殖を負に制御することを見いだした。 また、NLK活性制御化合物を探索するための系をセットアップし、本スクリーニングを開始している。 東京大学創薬オープンイノベーションセンターより15000種類程度の低分子化合の提供を受け、これらからNLK活性制御化合物の選別を行った。現在、一次スクリーニングがほぼ完了したところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、NLKの生体内における機能を解析するための実験系である、NLKノックアウトゼブラフィッシュ、時期組織と特異的にNLKを発現するゼブラフィッシュの作成をほぼ完了した。 また、NLKによるShhシグナル制御を発見し、その解析も順調に進んでいる。さらに、本研究について、Shhシグナルや神経系の研究の専門家と積極的に情報交換を行い、研究のブラッシュアップを行っている。 加えて、NLK活性制御化合物を探索するための系のセットアップも順調に完了し、一次スクリーニングもほぼ完了した。 これらのことから、本研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に作成したNLKノックアウトゼブラフィッシュと時期組織特異的NLK発現ゼブラフィッシュを用いて、NLKの生体内におけるシグナルファインチューニング機能を詳細に調べていきたい。 新規に発見したNLKの分子機能(上記のShhシグナル制御を含む)については、当該分野の専門家にコンタクトをとり、積極的に情報交換、共同研究を通じて進展させていきたい。また、NLKによるシグナル制御のヒト疾患における意義についても、九大病院と連携して解析を進めていきたい。 NLK活性制御化合物の探索においては、一次スクリーニングの後は種々のカウンターアッセイを行い、得られた候補化合物のさらなる絞り込みを行う。また、有機合成などの薬学の専門家と連携しつつ、NLKに特異的に作用し、疾患治療に有効な化合物を開発していきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
初年度は、NLKの生体内における機能を解析するための実験系である、NLKノックアウトゼブラフィッシュ、時期組織と特異的にNLKを発現するゼブラフィッシュの作成を行った。この過程は、比較的安価な分子生物学試薬のみで達成できた。また、本年度行ったNLK活性制御化合物を探索するための系のセットアップと一次スクリーニングも、共同研究者の開発した手法を用いることで、予想以上に大幅に試薬費を節約することが出来た。さらに、上記の研究は、本資金で雇用する技術職員、学生と共に行ったが、学生の期待以上の頑張りにより、技術職員の人件費を少なめにすることが出来た。以上の理由で、初年度の使用額を切り詰めることが出来た。(後述するように、次年度以降の解析においては、高額の試薬の購入が必要となるため、初年度は意識的に徹底した節約、切り詰めを行った。このような節約が出来たことで、次年度以降の研究を大いに推進できる。) 初年度は作成したゼブラフィッシュの系統の解析に必要な抗体やアンチセンスオリゴなどの高額試薬の購入に用いる。また、ゼブラフィッシュで発見したシグナルファインチューニング機構を哺乳動物においても解析するため、そちらで使用する生化学試薬・分子生物学試薬も必要となる。加えて、NLK活性制御化合物の二次スクリーニングでは、高額の試薬が必要となるので、これにも使用する。さらに、本研究の推進のために年間を通じて研究補助員を雇用する必要があるが、この雇用費は補助金分だけではまかなえないので、その一部を繰り越しした基金でまかなう。
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