研究課題/領域番号 |
25293089
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
竹屋 元裕 熊本大学, 大学院生命科学研究部, 教授 (90155052)
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研究分担者 |
菰原 義弘 熊本大学, 大学院生命科学研究部, 講師 (40449921)
藤原 章雄 熊本大学, 大学院生命科学研究部, 助教 (70452886)
大西 紘二 熊本大学, 大学院生命科学研究部, 助教 (40613378)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | マクロファージ / オルタナティブ活性化 / CD163 / CD204 / 腫瘍随伴マクロファージ / 天然化合物 |
研究概要 |
種々の病態におけるマクロファージの活性化状態を検討した。まずATLリンパ腫における腫瘍随伴マクロファージ(TAM)を免疫組織化学的に検討すると、M2マクロファージマーカーであるCD163陽性TAMが多いほど、予後不良であることがわかった。また、慢性閉塞性肺疾患には多数のマクロファージ浸潤が観察されるが、重症度に比例してCD163,CD204,CD206の陽性率が上昇し、慢性閉塞性肺疾患の病態にM2マクロファージが関与する可能性が示唆された。 一方、M1マクロファージのマーカーとしてCD169に注目し、大腸癌患者の所属リンパ節におけるCD169陽性マクロファージを解析すると、CD169陽性マクロファージの発現率に比例して予後が良好であることがわかった。その理由として、CD163マクロファージがCD8陽性T細胞による抗腫瘍免疫を増強している可能性が示された。 マクロファージのM2活性化を制御する天然化合物として、corosolic acidとonionin Aを同定しているが、今年度はcorosolic acidについて、先行して検討を進めた。上皮性卵巣癌とマクロファージとの相互作用の検討では、corosolic acidはシグナル伝達転写因子であるSTAT3の活性化を抑えることで、腫瘍細胞の増殖やマクロファージのM2活性化を抑制することが明らかとなった。さらに、低濃度の抗がん剤と併用する事で腫瘍増殖抑制効果が増強されることがわかった。また、マウス骨肉腫細胞移植マウスを用いた検討では、corosolic acidの投与によって、腫瘍重量の増大が抑えられるとともに、肺転移巣の形成も抑制された。その理由の一つとして、STAT3の活性化の抑制とともに、myeloid-derived suppressor cellの機能を抑制することで、T細胞の浸潤が増強されたためと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マクロファージはその活性化状態から古典的活性化マクロファージ(M1)とオルタナティブ活性化マクロファージ(M2)に大別されるが、単純に二系統化することには問題がある。ヒト腫瘍組織の腫瘍随伴マクロファージについてM2マクロファージのマーカーであるCD163とCD204の発現を検討すると、グリオーマ、卵巣癌、肝内胆管癌、腎細胞癌および種々の悪性リンパ腫において、CD204よりもCD163陽性マクロファージに関して腫瘍の悪性度や患者の不良予後との間に強い相関がみられた。一方、他施設からの報告で、肺扁平上皮癌や食道扁平上皮癌では、不良予後とCD204陽性マクロファージとの間に有意の相関がみられており、CD163陽性マクロファージとの関連はみられなかった。したがって、CD163とCD204の発現に関しても、M2マクロファージに多様性が存在し、その機能にも差異があるものと思われる。一方、CD169はM1マクロファージマーカーの一つと考えられるが、培養系における検討で、M1活性化マクロファージのすべてがCD169陽性とはならず、M1マクロファージにも多様性が存在するものと考えられる。現在、マクロファージの網羅的遺伝子発現解析をすすめており、その結果を期待したい。 マクロファージの活性化を制御する化合物の探索に関しては、corosolic acidと onionin Aに注目し、その作用機序の解明をすすめている。本年度の解析で、corosolic acidについては、担癌マウスを用いたin vivo解析から腫瘍進展を抑制する効果が得られた。また、その機序の一つとして、STAT3の活性化の抑制と、myeloid-derived suppressor cellの機能の抑制が関与する事を明らかにすることが出来、研究が順調に進展していると解釈される。
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今後の研究の推進方策 |
1.ヒト腫瘍組織における腫瘍随伴マクロファージ(TAM)に関して、腫瘍の発生部位や組織型の違いによって、CD163およびCD204の発現の程度に差異があることがわかってきている。そこで、検討する腫瘍の種類を増やして、発生部位や組織型とCD163/CD204陽性マクロファージの出現の程度を検討し、M2マクロファージの多様性を解析する。 2.CD163およびCD204に関して、それぞれの分子がM2マクロファージの機能に及ぼす影響について解析する。これに関しては、CD163およびCD204の遺伝子欠損マウスを保有しており、それぞれの分子の欠損マクロファージを用いた培養系での解析や、担癌モデルマウスの作成を通して、CD163とCD204のM2マクロファージにおける機能を明らかにしたい。 3.健常人ボランティアから得られたヒトマクロファージに関して、M1/M2活性化に関わるサイトカイン等の活性化物質で刺激を行い、遺伝子発現変化を網羅的に解析し、マクロファージ活性化の多様性について解析を行う。 4.マクロファージのM2活性化を制御する天然化合物として、corosolic acidおよび onionin Aを同定しているが、さらにgarlicnin Aやmanzamine Aなどの候補化合物について、その作用効果を検証する。また、corosolic acidとonionin Aに関しては、生体内における効果の検証とその作用機序について、さらに検討を加える。
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