研究課題
平成26年度は初年度の実績を更に発展させ、ヒト悪性腫瘍における腫瘍随伴マクロファージ(TAM)の役割に関して、多種の腫瘍について臨床病理学的な検討を行った。成人T細胞白血病(ATL)においては、CD204(クラスAスカベンジャー受容体)陽性のTAMの浸潤数とATL細胞の増殖に相関がみられた。また、ヒトの腎明細胞癌の検索では、腫瘍細胞とCD204陽性TAMに発現するT cell Ig and mucin domain-containing molecule-3 (TIM-3) が不良予後と相関し、その機序の一環としてTIM-3分子が治療抵抗性に関与することを明らかにした。一方、私どもがM1マクロファージのマーカーとして注目しているCD169に関しては、昨年度、大腸癌におけるリンパ節洞マクロファージにおけるCD169発現が良好な予後と関連することを見出したが、今年度は、悪性黒色腫ならびに子宮内膜癌について解析し、所属リンパ節の洞マクロファージにおけるCD169の発現が高いほど予後が良好であることが明らかとなった。その機序として、大腸癌と同様、リンパ節においてCD169陽性マクロファージがCD8陽性T細胞による抗腫瘍免疫を増強し、腫瘍増殖を抑制する可能性が示唆された。マクロファージの活性化を制御する天然化合物の探索は順調に進んでおり、トマト由来の化合物、ニンニク由来のGarlicnin類、タマネギ由来のOnionin類、海洋動物のアルカロイド類などがマクロファージの活性化に対する作用を有することが明らかになった。なかでも、Onionin Aについては、子宮内膜癌細胞を用いてin vitroでの検討を行い、低濃度の抗がん剤と併用する事で十分な腫瘍増殖抑制効果を示すことが明らかになった。
1: 当初の計画以上に進展している
ヒト悪性腫瘍における腫瘍随伴マクロファージ(TAM)の役割解明に関しては、従来から検討を行っているグリオーマ、卵巣癌、肝内胆管癌、悪性リンパ腫などに加え、成人T細胞白血病、子宮内膜癌、腎明細胞癌などでTAMの役割解明が進んだ。さらに分子メカニズムとして、マクロファージの活性化に重要な転写因子であるSignal Tranducer and Activator of Transcription 3(STAT3)やガレクチン結合蛋白であるT cell Ig and mucin domain-containing molecule-3(TIM-3)などの機能分子の役割解明が進み、新しい展開となっている。また、リンパ節の洞マクロファージにおけるCD169の解析では、CD169陽性マクロファージが抗腫瘍免疫の一翼を担うことが示され、種々のヒト悪性腫瘍において重要な意味を持つことが明らかになってきた。マクロファージの活性化を制御する天然化合物については、共同研究者を主体に精力的にスクリーニングが進められ、多くの新規化合物が同定されてきた。これらの一部については、既に動物実験において、TAMの活性化制御を介して腫瘍増殖を抑制することが見出されており、発展が期待される。これまでの私どものマクロファージと病態との関連に関する解析は国内外で高く評価されており、平成26年度の第103回日本病理学会総会で宿題報告として「マクロファージの活性化と病態」と題する講演を行うとともに、種々の英文総説を発表することで国内外に情報発信をすることが出来た。この様な観点から、本研究は当初の計画以上に進展しているものと考える。
1.ヒト腫瘍組織における腫瘍随伴マクロファージ(TAM)に関しては、ヒト病理検体を用いた解析から、グリオーマ、卵巣癌、肝内胆管癌、悪性リンパ腫、成人T細胞白血病、子宮内膜癌、腎明細胞癌などの多くの腫瘍において、M2-TAMの浸潤密度が予後不良因子の一つであり、腫瘍細胞の増殖活性にも関与することが明らかとなった。一方で、M2マクロファージにおいて発現が誘導されるCD163やCD204などのM2関連分子が腫瘍細胞の増殖進展と、分子レベルでどのように関わっているかについては十分にわかっていない。今後の検討では、マクロファージと腫瘍細胞との混合培養系や、CD163およびCD204欠損マウスを用いて、CD163やCD204などのM2関連分子に関して、分子レベルでの解析を加える必要がある。2.所属リンパ節のCD169陽性洞マクロファージの腫瘍免疫における役割については、現象論的なデータに留まっており、今後、CD169陽性洞マクロファージとTリンパ球、NT細胞等との相互作用を検討し、分子メカニズムの解析が必要と考えている。3.マクロファージの活性化を制御する天然化合物として、共同研究者によって種々の化合物が同定された。その一部については、担癌動物を用いて、TAMの制御を介した腫瘍増殖抑制効果の検証を開始しているが、今後の臨床応用が期待されるテーマであるので、動物実験によるデータ収集を精力的に展開する。
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