研究課題
基盤研究(B)
我々のグループでは、変異解析としてmRNA を用いたエクソンシークエンスを主として行い、基本的遺伝子変異( p53, EGFR,KRAS, HER2, BRAF)を3000 例にわたり検討してきた。その中で、特異な組織学的形態を呈する浸潤性粘液癌はKRAS変異の頻度が高いことが報告され、欧米の報告では80%以上の検出が示されている。しかしながら、本邦における報告および我々の検討においても50-60%の範囲にとどまり、新規遺伝子変異が存在する可能性があることに着目した。まずは、この群を組織学的特徴以外に明瞭に区別するバイオマーカーについての検討を行った。その結果、これまでまったく言及されてこなかったHNF4αが疾患をきわめて分別よく分類する腫瘍であることを見出し、肺癌を含む多くの腫瘍での検討を行った。その結果は Am J Surg Pathol 37: 211-8, 2013 として報告した。その後、他のグループから、末梢肺細胞の発生および維持を司る遺伝であるTTF-1/NKX2.1を抑制することで、このHNF4aが誘導され、胃の腺細胞への分化が誘導されるとともに、浸潤性粘液癌が発生することがマウスモデルで見出された(Mol Cell. 50: 185-99, 2013)。この結果は、我々の結果と一致する結果であり、HNF4aは生物学的、臨床的にも浸潤性粘液癌において重要な分子であることが示された。このような結果をもとに、肺癌における第2の発ガン過程についての総説を執筆中であるほか、本来の目的である浸潤性粘液癌の新たな遺伝子変異についても解析を進めており、興味深い結果が出つつある。
2: おおむね順調に進展している
初年度としては、疾患を特定するバイオマーカーの同定に成功し、その群での特徴を見出すことができた。また、それをもとにした遺伝子解析では興味深い結果も出つつあり、概ね順調に進展していると考えている。
初年度で得られた疾患を特定するバイオマーカーおよび組織学的特徴から選別される浸潤性乳管癌の新規遺伝子について検討を推進したい。特に、EGFR遺伝子変異の特徴でもあるように、欧米と本邦における遺伝子変異頻度が異なる可能性が示唆されているため、欧米研究者との共同研究を行うことでその違いが明瞭になると推測される。そのような共同研究を考慮した研究計画を計画している。また、その他の研究計画である腫瘍内遺伝子変異多様性についての検討についても、検討を試みており、miRNAによる腫瘍内多様性の説明についも検討を進めていきたい。
研究実施初年度であり、バイオマーカーの同定に専念したためそれほど支出が少なくて済んだ。次年度の網羅的な検索では大きな予算が必要と見込まれていることと合わせてこの未使用額は26年度に充てる。研究は概ね順調であり、使用計画全体に影響のあるものではないバイオマーカーによって選別された特定の疾患群についての網羅的な検索に用いる予定である。
すべて 2013
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 4件)
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