研究課題/領域番号 |
25293096
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研究機関 | 愛知医科大学 |
研究代表者 |
渡辺 秀人 愛知医科大学, 付置研究所, 教授 (90240514)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 腫瘍微小環境 / プロテオグリカン / バーシカン / 間質 / 細胞外マトリックス / 遺伝子改変マウス |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、細胞外マトリックスの主要なプロテオグリカンとして知られるバーシカン(Versican, 以下Vcan)の生体内機能とその作用機構を解明することである。胎生期の器官形成・組織発生におけるVcanの役割を明らかにしてきた申請者は近年、病態の発症と進展における同分子の役割を研究してきた。本研究では種々の病態を同遺伝子改変マウスに作出してその進展・治癒過程を観察し、さらにトランスジェニックマウスによる機能回復実験を行い、Vcanの病態制御機構の解明と機能ドメインの同定を目指すこと目的とした。 B6系マウスに生着し、かつVcanを発現しない腫瘍細胞株QRsP11をCre酵素発現アデノウイルス(Ad-Cre)と共に皮下に局所注入して宿主Vcan発現の腫瘍細胞に対する影響を検討した。その結果、宿主Vcan発現を欠失させた場合、腫瘍細胞増殖が亢進すること、この亢進作用の背景にヒアルロン酸とCD44を介したシグナル伝達ならびにTGFβシグナル伝達の亢進が関与すること、宿主線維芽細胞とコラーゲン線維が減少する一方炎症細胞浸潤の程度と炎症細胞の種類に差はないことがわかった。これらの変化はG1-G3ドメインから成るVcan V3バリアントの局所発現によって全て回復したためVcanのよる腫瘍増殖抑制効果はG1-G3ドメインに存在すると考えられた。さらに血管内皮細胞のVcan発現が欠失したVECad-Vcan系に同様の腫瘍移植実験を行ったが対照群と比較して腫瘍塊の大きさに差はなかったため血管内皮細胞が発現するVcanは腫瘍微小環境の形成に関与しないと思われ、恐らく線維芽細胞が腫瘍増殖抑制効果を発揮する中心的細胞と考えられた。B16F10細胞株で同様の実験を行ったところ統計学的有意差は得られなかったが宿主間質Vcan発現の欠失により若干の腫瘍増生促進が観察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Vcan<flox>系マウスにCre発現アデノウイルスを局所注射することによって宿主Vcan発現を局所的に欠失させる系が問題なく樹立でき、種々の実験系が進むようになった。特に腫瘍皮下移植実験では腫瘍微小環境の形成・維持におけるVcanの役割をin vivoにて明確にすることができた。研究概要に記載していないが創傷治癒実験、熱傷作出実験、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘発腸炎実験等、様々な動物実験系を用いてVcanの機能を検討しており、本研究は概ね順調に進行しているといってよい。
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今後の研究の推進方策 |
研究推進方策は具体的に以下の三点である。 1.QRsP11細胞の腫瘍移植実験にて認められたVcanの腫瘍増殖抑制効果がB16F10悪性黒色腫細胞株やルイス肺癌細胞株でも観察されるか否か、これらの腫瘍細胞株が発現するVcanにオートクライン的な腫瘍増殖抑制効果が存在するのか否かを、CRISPR/Cas9の手法を用いてこれら細胞株のVcan発現を欠失させることによって明らかにする。この研究によってQRsP11細胞株にて観察された宿主Vcanの腫瘍増殖抑制効果が一般化できるか否か、腫瘍細胞のVcanの微小環境に対する影響がどの程度なのかを明らかにする。 2.すでにマクロファージにてVcan発現を欠失するLyz2-Vcanマウス系、S100a4タンパク質(別名線維芽細胞特異的タンパク質)の発現細胞や筋線維芽細胞にてVcan発現を欠失するs100a4-Vcanマウス系とActa2-Vcanマウス系、V3時空間的に発現するトランスジェニックマウス系を樹立したので、これらのマウス系を用いて、上記の腫瘍移植実験の他、炎症、創傷治癒実験等と適応して、どの細胞のVcan発現欠失が病態に影響するのかを明らかにする。 3.これまでの研究結果からVcan発現が生存に必要と思われる線維芽細胞の亜集団が存在することが明らかになりつつある。Vcan発現の役割の差に着目して本研究を「線維芽細胞の亜集団」の同定に繋げていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究は概ね順調に推進できたが、更なる研究の発展のために次年度も引き続き研究を行う必要が生じたため。
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次年度使用額の使用計画 |
作出した様々な遺伝子改変マウスの解析の目的で、分子生物学的解析用試薬、形態学的解析用試薬、細胞培養関連の試薬を購入する。
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